生産性向上のテクノバ   
                   弘中泰雅  コンサルティングに戻る
 
                                                              
   コラム「鳥の歌」  食品産業研究会  日本穀物科学研究会         
                                        
                                     弘中泰雅著 食品工場の生産管理

  製造工場では、常に問題が発生する。ところがこれが常態化すると、工場の現場の人たちには見えなくなる。ほとんどの人は変化をみて異常(問題)に気付くが、常態化するとそれが当たり前になる。工場では生産性を低下させる、いろいろな問題が起きている。たくさんの工場を見せていただいての気付きを思いつくままに書いていく、皆さんの参考になれば幸いである。

   
 

IT成熟度レベル3

 アメリカなどの国々との生産性の差はITの活用度の差であることがいわれている。そのため政府はITの導入の遅れている平均的中小企業(売上5億〜20億)にITの活用を促してきた。読者の多くはこれらの規模の企業か以上、もしくこれらの企業レベルを目指す企業にお勤めだと思う。ITを導入するためには、企業の中にITを利用するための条件が必要である。その条件とはIT成熟度=IT人材成熟度×IT企業文化成熟度×ITインフラ成熟度×IT活用成熟度が到達目標「成熟度レベル3」であるとしている。
 レベル3とは要約すると以下の状態であろう。1.IT人材:従業員のほぼ全員がパソコンを使うことができる。基幹業務ソフトの要件定義ができる人材はいるが、ITを戦力的に利用できる者の育成はこれから。2.IT企業文化:仕事の手順は文書化、標準化されている(ISO9000) 主要業務プロセスは電子データ化されフィードバックや学習が組織的に行なわれている。3.ITインフラ:パソコンはハード、OS、ソフトとも一元管理されている事業所内のパソコンはクライアントサーバーネットワークで接続され、データーベースは共有4IT活用:会社としてIT活用の重要度が認識されている社外との接触のある全従業員に会社のメールアドレスを与え有効に活用している。さて皆さんの企業の現状はいかがでしょうか。

   
  いじめ

 生産性向上の話には似付かわしくない題ですが、食品工場にもいじめがあります。例えば成形が得意な人たちで構成されているラインに、新人が入ってきたとき分割機のストロークを早めて分割すると当然新人(でなくても作業が遅い人)はついていけません。そのような時皆でこれくらいは出来ないと言ってプレッシャーをかけます。無論作業は早いほうがいいに決まっているように思えますが、案外この様なことをしているときは、下流の工程例えば、焼成工程や包装工程で製品が滞ったりしています。部分的な生産速度の上昇は全体の生産性の向上には繋がりません。多くの場合生産性の低下を招きます。
 しかも生産性の低下だけではありません。従業員の定着にも影響します。この様なことは案外上級管理者には案外わかりません。仮に耳に入っても一見尤もなことのように聞こえるからです。もしもあなたの工場で従業員の定着が良くなければ、この様なことはないか気をつけてみましょう。一般的に生産する時はそれぞれの工程での流量(処理量)を出来るだけ同じようにしたほうが生産性は向上します。

原価意識

 食品工場の生産性の向上を目指す仕事をしている関係でいろいろな工場を訪問する。当然声がかかって訪問することになるので、その場合その工場には現状の生産性では問題があると思っている人が必ずいる。生産性を上げるためには、現在のやり方を少なくともどこか変えなければならない。ところがこれが最大の壁になる、口では生産性の向上を唱える人も、自らの仕事の仕方を変えねばならないと感じた時、まさに抵抗勢力になる。この人たちが改革をしようとしている人の前に立ちはだかる。
 食品産業には経営をオープンにしていない会社が比較的多い、例えば材料価格など社員に公開していないことが多いので、製品の原価など考えようもない。その結果として社員は原価意識が希薄になる。このような工場で生産性向上の必要性を説くことは難しい。工場の収益性は工場で働く人の意識と行動により決定されるが、その行動とその元になる意識をいかに作るかは経営者の考え方により決まる。もしも工場の生産性を上げたいと考えるなら、生産性を上げようというモチベーションをいかに社員に持ってもらうかから考えなければならない。誰も仕事の仕方を変えたくないのだから、それ以上のモチベーションが必要になる。

問題なし

 多くのベーカリーにおいて日報などで業務報告を求めていると思うが、その日報の記載に、問題なし、特になし、異常なしの文言が続いて記載されていないだろうか。企業の経営において最も悪いことは問題が無いことである。なぜなら問題が無いことは改善の余地がないことになるからである。 今が完全にうまくいっているのなら、それはそれで良いにしても、おそらくそのようなことはないし、日本中のベーカリーで非常に儲かっているところは余りない現実の中で、改善の余地がないということは、やはり大きな問題である。問題というものは突きつけられる現実としての問題もあるが、認識力により問題が表出する前に認識されることもある。殊に生産性に関しても同様である。自分の工場の生産性が充分なのか、低いのか、考えたこともない経営者、管理者も案外いるのではないか。
 問題認識がなければ、どんなにひどい状態であっても問題にならない。問題のない事が、最大の問題である。生産性についても同様で、問題意識を持ちあるべき姿に向かって努力すればこそ、生産性も上がっていく。ここが利益の源泉である。


IT革命

 アメリカの生産性向上の記事を読むと、必ずといっていいほどIT化の促進により云々という文言が見られる。IT(情報技術)の活用が生産性向上の鍵になっていることは間違いない。IT化とは平たく言えば、コンピューターを活用して社内外の情報を活用することによって生産性向上を図ることである。ところがパン企業の社員でコンピューターに疎外感を持つ人がなんと多いことか。部課長で抵抗感なくコンピューターが扱える、例えばEメールを有効に活用している部課長が何割いるのだろうか。自動車や電機の企業では管理職でEメールを利用できなければ仕事に参加できない。これらの産業ではメールを使えない管理職はほとんどいない。 
 こんなことでいいのだろうかといつも思っていたが、最近パン企業の中からも生産(工場)の情報をシステム的に使えるようにしたいという問い合わせが増えてきた。いよいよパン業界も変わり始めてきたなというのが実感である。あなたの企業のIT化は遅れていないか、あなたのIT化は遅れていないか見直す時期が来た。10年遅れのIT革命がパン業界でもいよいよ始まるようだ。


一国一城 

 どうやら元来人間には占有欲があるらしく、職場においても城を築きたがる。職場のいわば財産として、人と設備があるが、これが部署ごとに分離されている場合である。かつてコンサルティングした会社に興味深い工場があった。その工場は清潔でよく管理されているように見えたが、工場内がやたらと狭く感じたのである。しばらくして気がついたのは、ラインごとに全てのものが配備されているのである。ラインごとに原材料の計量の場所があり、運搬用の台車もラインごと、工程ごとに専用車があり、共用が可能な移動式のちょっとした作業台も専属の物がある。結果として工場内に物が溢れていたのである。
 物ばかりではない、どうやら人も相互のラインの仕事に関心がない、あるいは相互に干渉をしないのである。食品工場の仕事は時間の制約と負荷変動が絡むので、ライン間の溝があると効率が阻まれる。当然ラインごとに局所最適になっているとは言いがたく、製品ごとの負荷変動により、作業は振り回されていた。工場の生産性を考える場合、ライン単位ではなく全体を見なければならない例であろう。管理の仕組みを問われる例である。


生産管理

 今回は原点に返って、生産管理とは何かを、考えてみたい。と言うのは、生産管理の本質が食品企業で、あまりに理解されていないことに驚いたからである。この頃では食品企業で工場診断をする際に、生産管理部(課、係)はありますかと聞くことにしている。大手ではたいてい生産管理を冠する部署が存在するし、中小でも設置しているところは少なくない。ところが業務内容はと聞くと、実態は受注の集計業務だったり、電算の入力業務だったり、最初に生産管理はありますとの答えから、こちらが予想する内容とかけ離れている。生産管理について再認識いただくために、定義のようなものを引用したい。広辞苑によると、「企業経営において、生産の予想・計画・統制など、生産活動の適正化を計る」こととある。生産管理の事典の中で黒川は「生産管理は、市場の物的・時間的要求ならびに社会の要請を効果的かつ経済的に満たすように、資源を調達し、製品に変換し、製品とこれに関するサービスを顧客に提供するプロセスの構築およびその運用を意味し、場合によってはその目的のために利用できる技術の体系をいう。」と定義している。
 工場が求められているのは、品質・価格・納期である。いわば生産管理とはこれらを実現すためのすべてを含むと言っても過言ではない。貴社の生産管理担当部門の機能は充分か原点に返って見直すのも無駄ではない。


生産指示

 コンサルティングをする際、当日の生産スケジュール実績の良否を判断するために、同日の生産数の一覧、なければ生産指示数の一覧の表を出してもらうように依頼すると、電算からはきだされた帯状の紙の束が出たり、個々の製品の生産指示数をプリントした紙の束が出てくることがある。全ての製品個々の生産指示数、生産実数の一覧になった用紙がないのである。これで本当に生産管理が行われているのであろうか。
 グラフなどに視覚化された目で見る管理以前に、当日の生産状態を数値で記載した一覧表すらないのである。どのような管理を今までしてきたのだろうかと疑いたくなる。皆さんの工場はいかがであろうか。仮に後で電算室から当日の生産金額がレポートされても、これではどの製品が増えて、どの製品が減ったかもわからない。食品工場には管理以前の工場が多すぎる。現場のための伝票はあるが、管理者のための帳票がない。工場の管理という概念があれば、最低限の帳票は必要である。


時計

 たいていの工場の壁面に多くの時計が取り付けられている。ところがこれらのうちで正確な時刻を示していない時計がかなりある工場が有る。進んでいるものもあれば遅れているものもある。5分くらい違うものもある。人時生産性という指標があるように、生産性には時間が極めて大切である。したがって時計の正確さを見れば、その会社の生産管理のレベルがわかる。なぜなら生産が時間で管理されてなく、いわば成り行きの生産が行われていることを示しているからである。
 ちなみに5分の時間がどれくらい経済価値を持つかと試算する。例えば作業者100名の工場で、5分の時間が無駄になると、100(人)×5(分)÷60≒8.3(人時) 8.3人時の労力が無駄になる。仮に平均時間当たり労務コストを1500円だとすると、12450円/日となり、年間だと4,544,250円の無駄が発生することになる。せめて月に一度くらいは時の時刻を確認し、必要があれば調整しょう。


進取の気風

 今では仕込みは機械(ミキサー)で行うのは当たり前のことであるが、戦後すぐ位までは仕込みは人力で行っていた。これは大変な作業であることを想像することは難くない。手仕込みから機械式のミキサーを導入したころの話を、若いころ良く聞かされた。当時からある今残っているパン企業は、おそらくミキサーの導入が周辺の競争相手と比べて早かったに違いない。例えば、県で一番早いとか、市で一番早かったとか、そんな話を聞いた。だから競争相手より優位に立ち勝ち残れた。そんな話を知っている人はすでに現役を退いているであろう。もともとパンは何しろ、外来いわゆるハイカラなものだったから、それを商売にした人はハイカラな人が多かったであろう。その昔パン屋を始めた人は進取の気風を持っていたはずだ。
 しかし最近感じるのは、業界全体が保守化していることだ。新しいことに取りくもうという気風が欠けているのではないか。例えば流通業界と比べても、こちらの変化は大きいので、これに追いついていけず、振り回されている。先んずれば人を制すという言葉があるが、物事は人より先に行う方が、勝算がある。人がやってみてうまくいけば、自分もやってみようというのでは勝ち目はない。生産性の向上も同様である。業界を活性化するには進取の気風を取り戻さねばならない。


生産工場縮小

 いろいろな原因で、工場の生産縮小をせざるを得ないところを多々見る。比較的大きな取引先を失った。旧来の顧客の販売力が落ちた。大手の攻勢により競争力不足から販売量が減少した。量販店の購買戦略の変更により取引が縮小、中止になった。冷凍生地などを購買することにより自社製品の生産量が減った。など等理由は様々であろうが、パン消費量の停滞の裏で販売量の減少に対応するために、工場の生産量を減少せざるを得ない工場が増えている。いわゆる縮小均衡を図らねばならない、厳しいリストラも行ったが、経費は下がらない。そんな悩みの工場も多いようだ。 そんな工場をみて共通するのは、生産量が減少したにも関わらず、スケジュールの見直しが行われていないところが多い。生産量の減少に関わらず、全体的な生産のスケジュールは、なん十年も行って来た以前生産量が多かった時のスケジュールを引きずっているため、結果的にスケジュールは隙間だらけになっている。しかしながら何十年も行って来たスケジュールであるから、その生産量に比例する作業の所要時間でなく、この商品は何時に必要といった時刻の間隔で作るからその矛盾には気付かない。
 販売量は拡大するに越したことは無いが、人口の減少による消費量の停滞、それにつづく減少の現実の中で、工場によっては縮小均衡の政策をとらざるを得ない。このような場合、例え苦しいリストラをしても、工場の生産量の変化に対応したスケジュールを新たに作り直さなければ縮小均衡は実現できない。


生産性向上とTPM

 パン企業の皆さんと生産性向上の話しをしていますと、わが社はTPM活動に取り組んでいますと言う話を聞きます。TPMとは何でしょう。TPMを進めておられる(社)日本プラントメインテナンス協会のホームページによるとTPM=Total Productive Maintenance(全員参加の生産保全)の略称のようです。そもそもこの団体は製造プラントのメインテナンス技術の発展向上を計ることを目的として設立されたようです。したがって、設備からトラブルを出さないための活動が全員により行われることによって故障ゼロの職場、工場の実現を目指すもののようです。
 機械や設備がトラブルを起こすと生産性は向上しないことは明らかです。しかしながら機械や設備が故障やトラブルを起こさなければ生産性はどんどん上がっていくものでしょうか。サッカーのゲームに例えてみれば、選手の健康を十分に管理し、準備運動をして選手の故障をなくし、フル出場できるようにすることと似ているような気がします。これだけでゲームに勝てるでしょうか。ゲームに勝つには選手の健康状態だけでなく、敵の戦力や状況に対応したフォーメーションや選手交代などの作戦が必要なことは明らかです。だからといって選手の健康が如何でも言い訳ではありません。同様に、工場について話題を戻せば、生産性を向上するには選手の健康にあたる戦術としてのTPMと、作戦にあたる効率的な生産計画やリソースの合理的な投入など戦略としての生産管理(Production Management)の両方が必要なことは明らかです。


創・作・造 

 この三つの漢字は、それぞれ「つくる」とよめる。しかし意味は異なる。創はもともと刃物で傷をつけるの意味で、物を作り出す最初のステップつまり開発段階、新製品を開発するといった意味。作は人偏が付いていることから人が作る一般的な作る。造は大きなものを造るあるいは多量に造る。これらがそれぞれの解釈であろう。英語の動詞に置き換えれば、創≒create, 作≒make, 造≒produce に近いだろう。この三文字の「つくる」の中で、製パン業界は「造」の取り組みが甘いのではないだろうか。新製品の紹介や著名なベーカーの講習会などがあれば、参加者は多いとか、業界誌などでもそれらの記事は多い。しかしながら多量につくる「造」、これを合理的に行う記事に関しては、はなはだ少ない。
 現在世界的優良企業として名高い、トヨタや松下電器は良質な製品を多量に安く作ることに卓越した企業である。メーカーとして成功する理由は正にここにある。今後伸びる企業はこの点に着目しなければならない。勿論パン企業もメーカーとして例外ではない。利の元は工場にある。生産がいかに大切であるか、見直すときが来ている


コスト意識

 いろいろの工場を訪問してみて、生産に対するコストの意識が低い工場が余りにも多い。信じられないほどの不良品を作っている工場がある。これは論外としても、材料原価の追跡も甘く、昨今のように石油や砂糖などが上がっている時に、正確な材料原価が算出しているかどうか心配になる工場も多い。もっと気になるのは、労務コストである。一つ一つの作業が、それぞれの製品に対してどれだけ生産コストが掛かっているか、ほとんど無頓着である。経営者や工場幹部の方と話す機会がある、このときトヨタ生産システムはとか、看板システムとかの言葉の上での知識はお聞きするが、本質的な理解がある人は少ない。
 パン企業はもう少しコスト意識を持って生産を行えば、もっと利益が出るはずである。一つの包餡にいくら、天板に載せたらいくらと言う風に、単位操作のコストを意識すれば、もっといろいろなものが見えてくる。自ずとコストダウンのヒントも見つかる。コスト意識を持たなければ、生産性の向上は望めない。

経営者

 生産性を上げるためには、経営者の考え方が最も大切だと感じることがあった。パン企業を始め食品企業には、同族企業が多いため、特に経営者の人となりが、会社に与える影響は大きい。無論同族企業であっても、他の企業と同様、優秀な経営がされている会社もあるし、いわゆる大企業にもある。しかし残念ながらながら、そうでない会社も多い。世襲で社長が譲られるとき、モチベーションがないまま、社長などの重責が世代交代する場合がある。訪問した後で分かることであるが、このような会社から、生産性を向上したいと相談がくることもある。そんな時は、工場の生産性向上どころではない。当然このような会社では工場の経営指標もおぼつかない。工場運営についていろいろと質問しても、曖昧な言葉しか返ってこない。その上大抵取り繕われて返事が返ってくる、これには哀れにも感じる。
 こんなときには改めて、工場の生産性の根底を決定付けるのは、経営者であることを再確認する。このような極端な例を除いても、工場運営の良否に、経営者の能力や資質や考え方は大きく関わっている。パン工場は間違いなく製造業であるのに、生産性の向上すなわち工場の効率的な運営によって、利益をあげることに理解もしくは関心を持っている経営者は少ない。パン業界全体に横並びの意識がつよく、人に先んじて動ける経営者は少ないと感じる。これでは他社を制することは出来ない。読者の多くは経営者もしくはそれに繋がる方も多いと思うが、工場の生産性を決定付けるのは経営者自らであることを、ぜひもう一度改めて考えていただきたい。


仕分け作業

 工場の作業の最後に仕分け作業があるが、多くの工場でここの能率が悪い。たいていの工場の仕分け場は大規模工場の場合、巨大な設備が入っていて床のほとんどは見えないし、薄暗い中で多くの作業者が伝票を片手に、パン箱の山を押しながらこまネズミのように走り回っている。小規模工場といえば雑然としたパン箱の山に埋もれて、整理されているとは言いがたい手書きの伝票がパン箱に差し込まれたり、千切れていたりで、バタバタと作業されており、いかにも配送ミスが発生しそうな状況にみえる、これが日本のパン工場の代表的な姿であろう。
 これに対して海外、ドイツなどの工場では中規模工場であっても、コンピュータ化されており、しかも床にはなにもなく、広々としかも柔軟な製品配置で効率的に作業が進められている。日本のパン工場の仕分けシステムはもともと機械工業の為に開発されたもので、パン工場の仕分けに必ずしも適してはいない。
 生産性を考える場合、必ずしも製造部門だけの問題ではない。仕分け部門の効率化についても既存の発送を捨てて考えなければならない。仕分けにはパンパワーを相当要し、仕分けの効率も工場の生産性に大きく影響することに注意しなければならない。納期に関しても、仕分けが短時間でおこなわれれば、製造の時間にゆとりが出るはずだ

気付き

 生産性の向上に取り組むには、経営者なり管理者が工場の現状の問題点に気付かなければならない。多くの工場では、生産性向上のスタートになるこの気付きの点に、問題がある。例えば仕事の多い日も少ない日も終業時刻が余り違わない。夜間の作業は少ない人数でこなしているが、昼間は作業者数が多いにも拘わらず作業に時間がかかり、夜間作業者から不満がでる。これ等は生産性の低い工場の典型的な例である。これ等の状態を積極的に問題にしている経営者、管理者は少ないのではなかろうか。
 納期の厳しい朝便に間に合わすぎりぎりの人員の夜の時間帯と、その日の内に作れば良い昼間の作業では納期に対する厳しさが異なる。作業が早く終わっても、どうせ終業定時までは掃除をさせられるのだから、定時までに仕事を終わらせようなど、作業者の無意識の意識が生産効率に影響を与えている。
 これ等の現象の有る工場は、作業の状況を「見える化」すれば確実に生産性は向上する。日本経済も回復の兆しを見せている。他産業の回復を願うばかりでなく、工場の収益性を上げ、企業体質を改善していくことがパン企業に今必要ではなかろうか。


工数

 工数という言葉をご存知だろうか、経営工学では、労働時間あたりの生産性の逆数を取り、製品1個あたり延べ投入労働時間(人・時/個)として表したものを、工数という。したがってこの数字に平均賃金をかければ、1個あたりの労働コストになる。電機産業などでは、例えばビスを締める、部品を差し込むなどの作業を工数の単位として用い、これ等を合計して製品ごとの労務コストを算出している。パン企業の経営者と話すと、手を掛けたものほどよく売れて儲からないという話をよく聞く。これは材料原価が同じでも、労務コストが掛かっている製品ほどよく売れるということに等しい。では製品ごとに労務コストを算出しているパン企業はあるだろうか。現実的に生産工程の複雑なパン工場でこれはなかなか難しいだろうが。
 しかしながら、労働コストを無視している限り、パン工場の生産性の向上はない。製品一個あたりの労務コストを計算しないで、自動車や電機製品を作っている会社はない。ちなみに自動化された食パンラインなら、それほどでもないが、多品種で複雑な製品を作る菓子パンラインなどではどうだろう。材料原価にある係数を掛け、後はマーケットや競合をみて、経験と勘で価格設定をするというのは、近代産業として正しくはない。無論経験や勘は大切ではあるが実際のコストは掌握しなければならない、工数の概念を持ったときからパン企業の生産性の向上は始まるといっても過言ではない。


見える化

 「見える化」という言葉をご存知だろうか。トヨタ生産システムでも目で見る管理という言葉がよく使われる。百聞は一見にしかずとも言われる。目で認識すると言うことは人の場合、全ての感覚の中で一番優れているのであろう。我々は毎日工場を眺めることができる。しかし本当に見ているのだろうか。特にパン工場は複雑怪奇、今日の生産の流れ、すなわち全ての商品の工程を克明に図に書きなさいと言われてかける人がいるだろうか。工場の全ての工程が手に取るように理解できれば、無理やムダ、手空きに、手待ちなど、全ての問題が分かるはずだ。問題が分かれば、解決に近づく。すなわち生産性を上げるには、問題を掴むことが肝心である。工場の作業状態が一目で見えれば、生産性は確実に上がる。ついでに設備、材料、作業者、納期これ等が全て見えれば、問題は解決に大きく近づく。これ等が全て見えるソフトがある、生産管理ソフトの導入を考える時期が来ている。

生産スケジュール

 最近ある工場の1日の生産スケジュールを、生産管理ソフト「アドリブ」に入れようとしたが、どうしても入れることが出来ない。3日くらい試行錯誤したがどうにもならなかった。おそらく入れることは不可能であろう。それでは何故、何とか生産出来ているのであろうか。いろいろと検討しているうちに分かったことは、生産条件が守られていないから、何とか生産が行われているということである。適当に空いているミキサーで仕込みを行い、ラインを選択し、空いている窯があれば焼成し、なければ早めにホイロから出して、ホイロ出を押さえ、仕上げ製品はパン箱にとり積み重ねて、手がすいたら仕上げる。建前の製品の製造条件はあっても、ほとんどの製品は現場の裁量で製造条件が変化している。いわばなんでもありである。これでは安定した製品を作ることは不可能だ。安定した品質のパンを作るには定められた製造条件を守ることが第一である。又このような製造状態では生産性も極めて低い可能性がある。かまぎ大工の仕事のようなパン作りを、貴方の工場ではしていないか、もう一度確かめて見たら如何だろう。

生産ライン

 一連の生産に拘わる生産設備を生産ラインと呼ぶ。パン工場においても例えば食パンラインとか菓子パンライン、食事パンライン、ロールライン、単列ライン、4列ライン、大型ラインなどの名前で、たくさんのラインが存在する。工場で働く人たちは、特に違和感は無いと思うが、客観的にみるとどうもパン工場のラインというものの実態は、建前とどうもかなり違うようだ。工程の順で見ると、使用するミキサーは数台あるものの中の空いているものを使用する、例えばいつもは4列ラインで作るが、今日は4列ラインが忙しいので、この商品はロールラインで成型するとか、窯もいつもは150kwだが今日は180kwで焼く、包装機もどちらを使うかは現場の判断というのが多いのではないだろうか。これでは生産ラインではなくて、生産ウェブである。生産条件が曖昧であるために、設備が成り行きで選択されている。これでは生産の合理化は極めて難しい。生産の工場を目指すなら、絡んだ蜘蛛の巣(ウェブ)を解きほぐさなければならない。曖昧な(成り行きの)生産条件を、確定的なものにしなければ生産性の向上は望めない。このあたりが超大手とその下位グループとの生産における差異の一つであろう。


何故生産性を向上しなければならないか

 パン工場の生産性の向上に取り組んで、かなりの年月がたった。この間相当数のパン業界の方々にご理解を頂き、また成果も上げていただいた。しかしまだまだ、この業界の多くの方の理解を頂いているとは言いがたい。そもそも何故生産性を上げていかないといけないかについて考えて見たい。企業あるいは店は売上から経費を引いた利益で成り立っている。したがって売上より経費のほうが大きい企業は、成り立っていかない。昨今の日本の経済状況、人口減、あるいは高齢者の増加などにより、パン産業の売上の増加は停滞している、場合によっては微減の企業もある。このような環境の中でそれぞれの企業が、売上を伸ばすのは非常に難しい。
 したがって利益を確保するためには経費を落とさなければならない。経費の構成は材料費、人件費、管理費などの経費であるから、これ等を減少させなければならない。統計によるとパン産業の場合、非健全企業の材料費率は低い、すなわち材料比率を許容以上に下げた企業は利益が出なくなる。償却費などは変えようもない。したがって極論すれば企業に残されている方策は人件費の削減しかない。無論単なるリストラを勧めているのではない。如何に限られた労働力でたくさんの仕事をこなすかということである。すなわち如何に生産性を上げていくかということである。したがって今利益を確保したいと思うパン企業にとっては、直近の目標は生産性の向上である。


経済白書

 5年以上前から生産性の向上を訴えてきたが、いよいよ生産性の向上が待ったなしになった。このことが2005年度の経済白書に書かれている。人口減少のなか、一定の経済成長を保つには、一人当たりの生産額である生産性を高める必要がある。米国は人口の増加率低下を生産性の上昇で補ってきたが、日本は生産性の増加がほとんどないので、これからの人口減がそのままGNPの低下につながりかねない。しかも日本の生産性は、一般の日本人の認識と異なり余り高くない。その中でも食品産業は、他の産業に比べて生産性が極めて低いばかりでなく、その伸びもほとんどない。パン産業もその例を免れない。白書の指摘しているように生産要素が流動的に配分されてくると、ヒトやモノ、お金が効率の高い業種に流れて行く様になる。このまま低い生産性のまま、パン産業を放置すると、社会から見放される可能性がある。すなわちパン業界にヒト、モノ、金が入ってこなくなるということだ。パン産業のリーダーは今何に取り組まないといけないか真剣に考えるべきだ。


将来の夢はパン屋さん

 業界紙によると「ベーカリーの生産性は極めて低い。厳しい労働環境を積極的に改善していかないと、安全対策も衛生管理も有効に進めることができなくなる。味のいいパンを提供し顧客から喜ばれても、仕事は大変。長時間の作業が毎日続く。これでは従業員の犠牲で支えられているようなもの。そう言っても過言ではない。勿論、伝統的な製パンは大切です。しかし伝統の継承はあくまでボトムライン。その水準に満足してはいけない。パンの美味しさ追求を第一のポイントにしながら、新技術の導入や合理化に取り組み、生産性を上げていく。この方向に踏み出さない限りリテイルベーカリーの今後は期待できない。」と述べているのは日本パン技術研究所の井上所長。
 かねてより小筆の述べてきたところ、おそらくこの問題に取り組まなければベーカリーに将来はない。多くの経営者がここに気がついたときには既に遅きに失しているかもしれない。ベーカリーを外部の視点から見て、何処をどのように変えないといけないか、真剣に考えなければならない。現状の認識がなければ、その原因分析も対策もできない。将来の夢はパン屋さんという子供達がいなくなるまでに、手を打たなければならない。時間はもうそんなにない。


人時生産性

 ご存知の方も多いと思うが人時生産性という言葉がある。例えば一日の生産(出荷)金額(希望価格の50〜60%が製造部門の出荷金額になるというのが一般的)を一日の総労働時間で割ったものをここでは言うが、皆さんの工場の人時生産性(金額)がいくらか掌握しておられるだろうか。この人時生産金額は上であげた生産金額の設定が異なれば、その一人あたり生産金額もことなるが、労働生産性を考える上で大切である。勿論ラインの機械化率により大きく異なる。しかし仮に機械化率が同様の工場であっても、工場により生産性は大きくことなる。これは工場の収益性の違いになって現れてくる。それでは人時生産性を上げるにどうすればよいか。昨今の厳しい経済下で売上の増大はあまり多く期待できない。昨年対比で多くを期待できないところも多い。そうすると総労働時間を圧縮するしかない。現在ある工場(部門)で1日の総労働時間で総労働時間が500時間だとすると、人時生産性を10%向上するには450時間に減少する、すなわち50時間削減しなければならない。この50時間をどのようにして削減するかを具体的に考えて対策を打たなければ、実現できない。社長が工場に入ったら生産性が上がるという工場もあるがこれは生産性向上以前の状況であろう。苦しいがこの作業こそ生産性の向上につながる。


助っ人

助っ人といえば、野球の外国人選手を連想するが、パン工場にも存在する。この人たちはひとたびラインの作業者が足りなくなると、現場事務所や資材部、はては総務部や販売部門から出てくることもある。大きなトラブルが発生したり、クリスマスなどの祭事物で混乱をきたしているときだけであれば、致し方ないところであるが、多くの場合、これが恒常化している。中には半ば定期的に現れる人もいる。これらの人の中には菅理職もいる。彼らが労働負荷変動のバッファーとなっている。日本を代表するようなパン企業でもしかりである。一人は一人なので人/時生産性は特に大きく変動しないが、パン工場の労働力の主体となっているパート従業員と比較すると、時給に換算して3倍から4倍はゆうに超えるので、コストあたりの生産性となると大きな低下になる。管理職に時給数百円の仕事をさせて、計算が合うのだからパン企業はたいしたものである。それとも本来の仕事はたいしたことはないのだろうか。管理職は残業手当がつかないので、後で残業でもして仕事は取り戻してよということだろうか。問題意識がなければ生産性は向上しない。パン企業の生産性向上の道のりは遠い。


労働者数の減少

 日本の人口がほぼピークに達し、今後1,2年のうちに減少を始めることは、ほとんどの方がご存知だと思う。このことは市場の縮小ということで、食品産業には大きな脅威である。しかも若者が減少し、高齢者が増加する傾向にあっては、その数だけでなく、量すなわち胃袋の大きさ(消費量)の縮小は既に始まっている。パンの消費量が停滞し、エネルギー源としての意味合いの強い食パンでは、減少傾向が見えてきている。人口減はマーケットの縮小だけでなく、ここにきて供給労働力の減少の問題がでてきている。現在完全失業者が230万人いるといわれているが、今後10年間に380万人の労働者が減少すると見られている。これらはベビーブーマーとそれに続く世代のリタイアによるものであるが、仮に失業者がすべて職についてもなお150万人の労働者が不足する計算になる。一般に製造業では女子就業者は25%程度だといわれているが、今後人手不足が予想される中で、機械組み立てなどの産業でも女子作業者の導入が検討されている。食品産業は女性労働者が多い産業である。もし他の産業が女性の採用を促進したら、ますます食品産業は、今後人が取れなくなる可能性がある。本腰を入れて生産性の向上、勤務条件の向上に取り組まねばならない時期が来た。

労働災害

  工場に出入りしていると、時に、作業者が作業中にケガをしたということが、耳に入ることがある。こんな時、多くの場合、管理者や同僚の本音の反応は、「どうしてそんな動作をしたのだろう、考えられない」である。問題なのは、それがたまたまのそんな動作だったのか、いつもそうだったのかである。自動車や電機製造のラインでは、作業者の作業動作を規定する作業の手順を克明に書いた、作業手順書が貼ってある。作業の順番や管理レベルなどが記載してある。したがって作業者の作業内容に、どうしてそんな動作をしたのだろうという、作業の入る余地はあまりない。ところが、食品工場では、そのような作業手順書を見たことがない。多品種少量生産の多い食品工場は難しいということも言えようが、少品種の工場でもあまりない。細かい作業の手順、動作について、ほとんど検討されていないからであろう。したがって、作業が作業者の自由裁量による手順で行われている。これが労働災害を誘引している可能性がある。しかし、その影響は労働災害だけの問題だけではない、作業の分析が行われ、適切な作業手順で作業が進んでいなければ、作業効率も悪くなる。労働災害が発生した箇所は安全の上から当然検討対策されなければならないが、生産性の点からも正しい手順をするように見直しをしなければならない。

生産性は何故上がらないか

 生産性を上げようとするが、何故か思い通りに行かない、工場が多いのではないか。生産性を上げるにはそのための手段が必要だが、上がらないことにも理由がある。一番の理由は、自分が変わりたくないことであろう。組織の上から下まで、これが染み付いているところは、どうしようもない。結構他人には変化を求めるが、自分はそのままがいい人も多い。今までと違うやり方をしなければ、生産性に限らず、何も変わらない。何やかやと、もっともらしい理由をつけて先延ばしをするケースも多い。来年からとか、来期からとかが、多い理由の典型であろう。そういう意味では新しいことを始めるには、今が最もいい時期である。良いと思ったら、即実行、これが成功している企業の定石である。人心の変化なくして改革はない。人心の変化なくして、改善はない。より良い会社、工場を目指して、変化にチャレンジしよう。チャレンジによって生産性の向上は計られる。


勝つシステム

 パン工場の生産性が低い理由を、従業員の作業能力が低いためだと考えている経営者、会社幹部が未だに多いのには、今更ながら驚く。先の大戦や、近くはアテネオリンピックでの野球の敗北など、参考にすべき例は多い。日本の野球界を代表するような選手を揃えながら、プロ野球リーグもない、オーストラリアに負けてしまった。勝つために、何かが欠けていたのではないか、勝つためのシステムがなかったのではないか。日本チームを徹底的に分析していたオーストラリアと、長嶋氏のために勝ちたいという主観的モチベーションの日本との差が歴然と出来てしまった。
 多くのパン企業で、コンビニなどの流通との取引で、配送回数が以前にも増して、それが製販の負担になり、生産性が落ちたと聞く。それなら、何か根本的にシステムを変えたかと、自ら問いただしてほしい。勝敗は、選手(従業員)が決定するのではない。勝敗はシステムの良否にもよる。そのシステムを作るのは、経営者、経営幹部(監督)であって、選手(従業員)ではない。環境の分析、対策が出来ない企業は早晩、立ち行かなくなる。


直行率

 直行率はなじみの少ない言葉であるが、生産性の向上には極めて大切な概念である。たとえば包装工程で、包装不良が出たとき、包装済みの製品を解体して、再包装する時を考えてみよう。このとき誰の目にも映るムダは、捨てられた包装紙の残骸である。これをカウントして包装ロス、包材のロスを気にしているが、ムダに使われた時間のことを考えてことがあるだろうか。
 たとえば1000個の製品を包装して、包装不良が10%の100個出たとして、100個を再包装すると、実際には1100個の製品を包装していることになり、しかも100個の製品の解体作業にも時間がかかっている。通常の包装機で1000個の製品なら15分くらいで包装できるとすると、1100個包装すると1630秒かかる。加えて解体に何分かかるであろうか。多くの場合、無駄になった包装紙が気になるが、無駄に使われた時間が如何にコストがかかっているか考えてみよう。実際包装不良の不良率が10%より高い工場はいくらでもある。
 直行率とは、投入した材料が、そのまま(補正や修正なしに)製品になることを言う。直行率が高いということは、単に不良率が低いということではない。直行率が高いということは、無駄な仕事をしないということである。目で見える不良品だけでなく、浪費された作業時間を考えたい。分割機でダブルになった生地などにより、生産指令数より多い分割機でのカウント数などもムダの典型である。生産性を向上するためには生産に直行率の概念を取り入れなければならない。


作業台

 ラインでコンベアーに張り付いて仕事をする場合、人の配置は装置の位置により、ほぼ機能的に決定される。しかし手作業を作業台に向かって複数の人でやっていると、作業者の位置の自由度は格段に高くなり、思い思いの場所で仕事をしているケースが多い。工場によっては、多段階の仕事を自己完結型でやっていることもある。一人遊びが集まったようなものだから、当然集団作業としての効率は上がらない。あるいは作業の流れを無視して、それぞれがお気に入り(習慣になっている)の場所や仲良しグループで仕事をしていることも多い。この場合、製品の移動がスムーズにできないので、製品が投げられたり、製品の移動のために作業者自らがわざわざ移動することもある。
 すなわち管理されていない工場では、生産のための人員の配置ではなく、個人(集団)の思いによって人が配置されている。スポーツにフォーメーションがあるように、仕事にもフォーメーションは必要である。作業の動線と人の位置、人の動線をみれば、工場の生産性の実力が見えてくる。


手空き

 生産性を上げるには、メイクスパン(生産所要時間)を短くすること、すなわち手待ち時間をなくすことと、手空きの人を無くすることにつきる。手待ち時間はガントチャートを描けば、容易に発見できるが、手空きの人を発見する事は難しい。ある自動車会社で「怒りもしないし、勿論罰則も在りませんから、手空きの人はラインから外れてください。」といって手空きの人を発見しょうとしたが、結局一人もラインから外れなかったという有名な話がある。
 作業者は悪意ではなく本能的に自分が手空きである事をわからないように行動する。理由は自分がその立場になったら何故そうするか考えると明白である。従って人手が足りないという苦言はあっても、人が余っているとの言葉はほとんど発せられないであろう。1人の仕事を2人ですれば、不自然であるが、3人の仕事を4人でしても1人の手空きは隠れてしまう。手空きは人ごみの中に埋没する。
 1人の仕事は1人で、2人の仕事は2人で、3人の仕事は3人で、この原則を確実にまもれば、この手空きは除かれる。そのためには作業ごとの作業分析が必要であることは勿論であるが、手空きのサインを見逃さないようにしなければならない。


不具合

 生産性を下げている原因の一つに、ライン設備の不具合がある。例えばオーバーヘッドプルファーで生地が2個玉になるとか、生地が上手く反転しないで落ちるとか、天井コンベアーで小型のパンが挟まるなど例を挙げれば暇が無いほどいろいろとある。ところが、パン工場ではこれらの現象が出ないように生産されているケースが多々ある。2個玉にならないように、分割速度を落としてみたり、天井コンベアーにあげずにラックに取ったり問題が発生しないように、やり方を変えて対応している事が多い。
 これでは問題が発生しないだけで、生産性は大幅に落ちる事になる。問題が無いことが、一番の問題と言われるが、この場合は典型的な例であろう。多くの場合問題が無いのではなく、問題を覆い隠しているともいえる。生産設備に不具合があれば、可能な限り正常に戻しておくことが肝要である。生産性の向上以前のレベルにある工場もたくさんある。当たり前のことは当たり前に出来る体質こそが、生産性向上の第一歩である。


ボトルネック

 生産においてボトルネックとは生産処理能力の貧弱な部分をさす。道路では言えば渋滞が起こりやすい狭隘なところに例えられる。パン工場を指導していると、ボトルネックが放置されていることが多い。多くの場合機械装置そのものではなくて、それらの結合部分であることが多い。当初からの設計自体が悪いところもあるが、設備の更新で構造が変わったために発生したものも目にする。機械装置そのものであれば、機械メーカーが対応してくれるが、その原因が競合的であればあるほど手に負えなくなる。
 たとえばメイキャップの工程で、ラウンダーとオーバーヘッドプルーファーでの連携が悪く生地がダブルになる。冷却コンベアーと地上の搬送コンベアーの継ぎ目にパンが食い込む、などが見られる。これらの問題箇所の改善は仕方ないものとして放置され、結果的に速度を落として分割したり、食い込みやすいものはラックに取ったりして凌いでいる。そのうちにそれは当然となり、これらが生産性を著しく落としていることすらも忘れてしまう。こんなことが結構起きているが、上記のような対応をすると上級の管理者には分からない。生産のボトルネックの解消、言葉では易しいが、現実には結構大きな問題である。


管理

 生産現場を調査すると、幹部の人からうちの工場は管理がなされていないと言う話を聞く事がある。尤もな話である、お世辞にも管理をされているとは言いがたい工場がある。しかし、少し考えてみよう。管理をするためにはルールが必要である。何処に、何に、どんなルールを作るか検討されたことがあるのであろうか。品質管理を例に挙げても、例えば製品の規格は決まっているのであろうか。その規格を満足する生産の条件は決まっているのであろうか。この決まり、すなわちルールがあって始めて管理が出来るのである。
 闇雲に管理、管理といっても、何をどのように管理するのであろう。工場の管理を徹底したいのなら、先ず合理的なルール作りが先決であろう。思いつきのルールで管理されたら、従業員から苦情が出るだけで、マイナスの効果しか生まないであろう。管理とか基本を大事にと言う前に、何が基本で、何を管理するのか、幹部たるもの考えなければならない。もちろん生産管理も例外ではない。


何故×5

 品質の問題、生産性の問題など、問題(トラブル)に遭遇した時は、何故、何故、何故、何故、何故と何故を5回繰り返す事は、トヨタ生産システム(TPS)でも大事な原則の一つである。困難な問題にぶつかった時、その解決は多くの場合、簡単ではないので、問題の真の原因に行き着くには、何故、何故と疑問を5回繰り返さなければならないと言われている。
 しかしながら、私の経験では食品工場では多くの場合、問題に遭遇した場合、何々だから出来ないとか、設備がないからとか、いろいろな言い訳で簡単に納得して、諦めている場合が多い。トヨタは大企業であっても、従業員は粘り腰で問題に取り組んでいる、だから強い企業になった。
 問題を解決することは容易ではないことを認識して、何故、何故、何故、何故、何故と繰り返して、真の原因を探り、その原因の解決に挑戦してみよう。今まで解決できなかった問題が、解決できるかもしれない。問題の解決に一番大事なことは、解決しようという熱意である。そうすれば問題を掘り下げることが出来、次々と疑問が生ずるでしょう。そして真の原因に到達できる可能性が大きくなる。そうすれば解決策は目の前にある。


作業記録

 工場のコンサルティングを依頼された時は、最低限の作業記録を書いていただくように依頼します。工場によって反応はまちまちです。この反応によって工場の生産性向上に対する意気込みや、抵抗の度合いがわかります。これが第一のハードルです。欠けない理由はほとんど、「今でも忙しいのにそんなもの書いている暇がない」です。書く気がないから書きたくないとは誰も言いません。作業記録もかけないほど忙しい工場は生産性が低いのはお察しの通りです。掃除の行き届いていない工場と同じです。本当に掃除をする時間がないほど忙しいので、汚くなってしまったのでしょうか。いろいろな工場に行きますが、大抵きれいな工場は生産性が高く、汚い工場は生産性が低いのが法則のようです。
 作業日報が書く時間がない工場も生産性が低く、きちっとした記録が出来ている工場は生産性が高いものです。貴方の工場はいかがでしょうか。きれいですか。作業記録はきちっと残されていますか。そしてその記録が次の生産性の向上や品質の向上に役立てられていますか。


大きい段取り小さい段取り

 トヨタ生産システムの考えの中に大きい段取りと小さい段取りというのがあるのをご存知だろうか。大きい段取りとは経営者、工場長、管理職が行う段取りで、小さい段取りとは下位監督者、作業者が行う段取りである。仕事を進めるには段取りが大切で、段取りしだいで仕事の進捗に大きな差が出る事には異論のないところであろう。
 生産性向上について感心のない経営者はないと思うが、生産性の向上について自らしなければならない事を理解している経営者は少ない。生産性は工場が頑張って実現するものだとの考えが一般的であろう。しかしそうであろうか。確かに一つ一つの作業の手際については現場が考えなければならないが、生産性を改善する仕組みづくりは現場サイドでは困難である。話をトヨタに戻して考えれば容易に理解できる。いくら作業者が頑張ってもトヨタ生産システムは出来ないのである。仕組みは大きな段取りである、仕組みは経営サイドで考えるものである。生産性が上がらないのは作業者の所為ではなくて、経営者の理解の欠如であることが多い。もう一度大きな段取りに抜けがないか見直すのも無駄ではないだろう。


マーケットイン

 物が売れない時代になってだいぶたったが、まだ作れば売れる時代、プロダクトアウトの時代の感覚でいる経営者や管理者に時々会う。無論商品開発とか、マーケットインとかの言葉はでるが、工場中心(自己中心)的な考えがみえてしまう。昨今売れている商品の傾向として,手を掛けた商品がある。本能的に消費者は手を掛けた商品を嗅ぎつける能力があるのであろうか。売り上げがあがっても人件費で利益が消えてしまう。
 多くの工場がプロダクトアウトの時代に建設された工場であろう。すなわち作れば売れる時代に設備されたラインが存在する。世はマーケットイン時代、大量生産時代に設置されたラインでいかに、消費者の好む商品、すなわち手の入った商品を作るかが勝負を決める。手を掛けることは人件費の増大につながる。当然生産性の低下につながる、消費者から見て価値ある商品をいかに作るかがミソである。お客さんには、人件費がかかっているかどうかは関係ない。既存のラインを如何につかってお客さんに魅力ある商品を、低い生産費で生産することが要求される。従来の乗用車のラインでミニバン「初代オデッセイ」を作ったホンダの取り組みは参考になる。いくら労働生産性をあげても、作る商品に魅力がなければ意味がない。かといって働けど我が暮らし楽にならずでも困る。残されたラインを如何に有効に使って、魅力ある商品を効率よく作るかが勝敗を決める。


移動と運搬

 物を製造するにあたって、作業の中に、移動と運搬と言う動作が予想以上に含まれている。この移動の中には、原材料の移動、半製品の移動、人の移動、道具の移動、製品の移動、包材の移動などが含まれる。場合によっては装置や機械の移動もあろう。
 作業者が仕事をしていると認識している動きの中にも移動や運搬がかなり含まれる。生産の中に費やされる移動運搬のエネルギー(時間、コスト)はかなりの部分を占める。よく言われる、「動く」と「働く」は違うと言われる所以だ。生産の効率を上げるには移動の距離や回数を縮めることが大切だ。そのためには機械や設備のレイアウト、原材料の保管場所なども重要だ。あるいは少量ずつ何度も、足を運んでいるところは無いだろうか。生ものなどの腐敗や変質には無論留意しながら、運搬の距離や回数などには注意が必要である。
 特に慣れた作業は、当たり前になって問題点が見えにくくなる。移動や運搬を見直してみよう。無造作に置かれた、作業用の運搬荷車、ラックなどは、移動や運搬の邪魔になり、作業効率を落とす原因になる。これらの停止位置は明示しておいたほうが良い。そろそろ年末であるが、この際不要なものは、工場の外に出そう。不要な棚や段ボール箱、天板など無造作に置かれている工場を良く見かける。これらの不要物は年末の大掃除の時に、外に出そう。広いスペースは移動と運搬をしやすくし、生産の効率を上げる。


包装

 食品工場をコンサルティングして、良く遭遇するのが機械の調整が悪い工場である。特に包装機の調整が悪い工場が多い。包装はいわゆる製品である食品が出来た後行う工程なので、食品製造という意味では付帯的な作業ととられて軽く取り扱われているのかもしれない。充填や袋詰めが上手く行われていないものや、シール不良がたくさん出ている工場が多く認められる。商品である食品は包装によって輝きを与えられるものであり、包装は生産工場にとって極めて大切なものである。
 特に包装は製造の最後に行われるので、この工程での処理速度は全体の生産性を決定付けるのみならず、この工程での不良は経費をかけて作った商品を不良にするのであるから原材料の損失のみならず、人件費、光熱費などの生産コストを加えて無駄にすることになるから特に気をつけなければならない。
 食品産業に勤める人の多くは機械好きな人は少ないように感じる、機械やコンピューターは苦手だから食品会社に入ったという人も少なくないと思う。しかし周りを見渡していただきたい、貴方の周囲は機械で取り囲まれているのではないだろうか。機械になれ、機械を味方にすれば、自ずから生産性は上がる。


現場を見る眼

 工場の調査を行うと、時々「おやっと」思うことがある。どうしてこんなことをやっているのだろうと不思議に思う。自分で自分のことはわかりづらいのと同様、毎日見る工場の問題はわからないのであろう。工場の問題はと聞くと「生産性が低いのが問題です」との答えが返ってくる。しかし生産性が低いのは問題ではなくて現象であり、結果である。すなわち生産性を低下させている、原因、真の問題に対する解明はほとんど行われていないケースが多い。 工場の問題は現場主義で解決する事が一番であるが、昨今の労働環境からパートやアルバイト、はたまた派遣社員まで増加しており、正社員の数は減少している。仕事に関する知識やモチベーションは低下傾向にあるのは否めない。工場を唯一回りするのが管理者の務めと勘違いしている管理監督者も多い、あるいは事実上は作業者としての勤務に追われている管理監督者も相当な割合でいる。
 工場の生産性を低下させる真の原因は、客観的な目で凝視しなければ発見できない。生産性の低さをなげくより、その原因を見つけ、それを排除することを始めよう。そのためには生産に対する知識も必要である。


稼働率

 機械の全能力に対する稼動比率や稼動時間の比率を機械稼働率というが、人の場合はどうだろう。機械なら稼働率が低くとも、初期投資の回収分は別にして、少なくとも運転経費は発生しない。ところが人の場合は能率が高くても低くても、基本的に時間当たりの経費は発生する。 職場を見わたせば、1人の能力を必要にしないところに1人張り付いている事が良くある。ひとは半分に割ったり、人件費が発生しないよう電源を切ったりできないから、常識的な意味においてフルパワーで働いていない労働費の生産コストに対する負荷は負担になる。 工場のあちらこちらに点在する、1人力以下の仕事についている作業者の兼務について検討してみると、案外大きな改善が見られる場合がある。一度検証してみたらどうだろうか。この場合担当者に聞けばたいてい忙しいと答える場合が多いので、適切な処理速度で作業がなされているか、標準作業速度を調べてみる必要があろう。


社長の威光

 だいぶ前のことであるが、あるかなり大規模の製パン会社の社長さんとパン工場の生産性について意見を交わしたことがあった。その中でその社長は、工場の生産性を上げる一番の方法は、自分が工場を巡視する事だと言われた。まんざら冗談とも取れない言い方であった。こんな考えを持っておられる経営者は少なからずおられるのではないだろうか。
 従業員からみれば、突然社長が工場に入ってきた時、働いている事を見せなければならない。そこでこれに対応して一生懸命働いているように行動する。この場合社長は働いていることと、動いていることの違いを見極めなければならない。動く事と働く事はまったく違う、一生懸命動いていることを勘違いして喜んでいる、社長はたくさんいるのではなかろうか。一生懸命動いていても、場合によっては手待ち時間、手空き隠しのこともありうる。
 当然社長は365日24時間工場にいることは出来ないので、社長が工場に入れないときでも工場は円滑に、効率よく機能するシステムを作り上げておかなければならない。社長の威光なしで、高い生産性をあげる工場を作ることが肝要である。そのためには合理的なしくみが必要になる。


サービス残業

 不況の所為かサービス残業が増加しているという。昨年は1万7000件で対象の事業所8箇所に1箇所の割合で、是正指導を受けたという。 パン企業もサービス残業が多い業種だと思う。中にはうちはサービス残業で持っていると嘯く経営者もいる。方やあるベーカリーチェーンはサービス残業完全撲滅に取り組んでいると聞く。サービス残業がなくならない限り生産性は向上しない、いくら生産が非効率で時間がかかっても、従業員の労働時間が増えるばかりで、会社の労務費が増えるわけではない。ここが案外ベーカリーの生産性が低いままの理由の一つかも知れない。この現状に経営者が甘えている。
 日本は高齢化社会に入りつつある、既に若年人口は減少を始めている。外国人労働者の導入の話が出るくらい、近い将来労働者不足が起きると予測されている。不況時の労働者過多の状況が、何時までも続くと考えるのは間違いである。一人当たりの生産性を向上し、労働条件の向上に取り組まない企業は、近い将来労働者不足に悩まされるだろう。


0307 ラインバランス

 ある工場のラインで、ほとんどの商品が1時間当たり、5000個くらいのペースで生産されているのに、特定の商品だけが時間当たり半分以下の、2000個余りのペースで生産されているのが見つかった。早速ラインの責任者に問い合わせてみると、成形の人手が足りないので成形能力に合わせて生産しているとのことだった。よくよく聞いてみると不足人員は1名であった。このことを上層部に報告すると直ちにこの時間帯に1名の補充された。
 このアイテムを流すのに今まで2時間要していたが、一人増強する事で1時間で生産できるようになった。このアイテムを流している間、仕込から焼成、包装まで、成形の速度に合わせて生産していたのだ。このラインのこれまでの生産人員が9名であったので、このアイテムの生産をするために2時時間の所要時間で18人・時要していたが、このアイテムの生産時1名補充する事により、時間が短縮され10人・時で生産できるようになった。硬直的な人員配置では生産性が下がる。柔らか頭でラインの生産状況を見つめなければならない。ラインはボトルネックの能力でややもすると生産能力が決定される。製品によって製造条件が変わるので、当然ラインバランスが変わることを理解し、人員の配置などは柔軟に変更すれば生産性が上がる。

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