弘中泰雅著 食品工場の生産性2倍 ”ムダに気づく”人づくり・仕組みづくり | |||||
食品製造業の生産性は極めて低いのが現実です。しかし1950年代には食品製造業の生産性は決して低くなかったのです。因果関係の言葉が示すように結果には原因が有ります。本著はそのような観点から食品製造業が現在のような低生産性に至った原因を一つ一つ解き明かし、それぞれの原因に対して対策を打つことで生産性の向上をめざすことをテーマにした本です。
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日刊工業新聞社 2000円(+税) 全国有力書店、ネット書店で発売中 |
(推薦文) 熱き思いと深い愛情が説く食品工場の再生術 (一社)日本生産管理学会会長 関西学院大学教授 福井幸男 本著は,わが国の食品業界に関心のある人々にとどまらず、広く日本のものづくりに関心を抱く人々にとっての必読の書物である。それは、食品製造業がわが国産業の活性化の議論の中では極めて語られることが少ない、研究上の盲点になっているからである。ITや装置型産業の問題はマスコでも取り上げられることが少なくなくないけれども、食品という日常生活を支える産業の実情については、語られることが極めて少ない。私を含めて日本人は日常生活を支える食品工場については、灯台下暗しの感がする。「鯖を読む」、「どんぶり勘定」「誤魔(胡麻)かす」に見られるように、あいまいな計算事例はこの業界の特有事例なのか、本書をひもとけばその理由がわかるというものである。 すでに、著者はこの方面の大家として名をなしており、「食品工場の工程管理」、「食品工場の品質管理」、「食品工場のトヨタ生産方式」、「食品工場の生産管理」と最近5年間で5冊の著書を世に問うている。いずれも、長年の著者の食品生産にかける熱情がほとばしる好著であり、「食品工場の生産管理」は、一般社団法人日本生産管理学会の学会賞の栄誉に輝いている。 本著でも筆者の長年の研究に裏付けられた数多くの問題提起とそれに対するいくつかの具体例に富んだ提言は、この業界の将来に対する希望の光を灯している。 本書の第一の特徴は、現場を知っている弘中氏しか書けない具体的な問題事例が、説明材料として、説得材料として、随所に有効に使われており、読者にリアルに訴える構図となっていることであろう。工場内に点在する手押し台車の多さはその一例である。人による運搬は減少させなければいけない。なぜなら運搬は付加価値仕事の時間を侵食していると断言する。このような明快なサジェスションが本書中にちりばめられていると感じるのは私だけであろうか。材料のムダの指摘も正鵠を突いている。コンビニに卸すサンドウィッチとお弁当のおかずの盛り付けの例も興味深い。わずかな盛り付け量の増加は大量になると。予期しない材料費の増加につながる。また、ケーキの生地の充填も手作業できっちりした管理が出来ないだろうし、正規分布を使っての食品重量の管理の指導例はわかりやすい内容になっている。 筆者の筆の運びは冴えわたっている。用意周到なマクロ経済データを使用して、産業別の生産性の比較を行う。そこでは食品産業が並外れて生産性が低いことを示すことに成功している。つぎにその要因は何か、具体的な事例を傍証にあげながら筆者の詮索はつづく。従業員の労働の質を勤続年数で援用して、「正規労働者よりもとにかく賃金の安い労働者を使う」との経営者の声を収録している。筆者の手堅い綿密なデータ分析は驚くべき事実を我々の前に示してくれる。1950年代の自動車産業と食品産業の生産性を比較すると、それほどの差はなかった。違ったのは自動車産業の給与水準が食品産業よりも4割高かったことであると。膨大なデータの中から用意周到なデータの読み取りは非常に興味深い結論を導き出している。また、年来の筆者の主張である品質管理=食品安全管理の思考の枠から抜け出せない事実を紹介している。最後の壁は、経営者の保守的な思考であり、従来やってきた枠を打破しきれていないという。その大元に品質管理とは食品安全管理という間違った既成概念があるという。 多くの指摘された問題に対する解答は、具体的な対策提案として実を結ぶ。ここは読者の楽しみに残しておきたい。最後に、このような対策がすべて具体的に十分明記されているわけではないが、今後の食品産業を考えるうえで、多くの示唆に富む「事例」と「問い」と「打開策」に加えて、熟達のコンサルタントとしての「熱き思い」がひしひしと伝わってくる好著である。 |
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