2011年 日本穀物科学研究会

第145回例会

2011年2月5日(土)13:00より高津ガーデン(大阪市天王寺区東高津町7-11)にて第145回例会ならびに総会を開催いたしました。 
テーマ  
 シンポジウム 『食の安全・安心に関する最近の取り組み』

講演  食の安全・安心について
                              山口之彦 氏   大阪市立環境科学研究所 研究副主幹

2001、2002年に中国産青果物における残留農薬の基準値違反、無登録農薬の販売、BSE、産地偽装など、食を脅かす事件が連続的に発生した。これを受けて、農林水産省は、2002年12月に農薬取締法の改正を、厚生労働省は、2003年5月に食品衛生法の改正を行った。また、国民の食の安全を確保する目的で食品安全委員会が設立された。

この頃から、食の安全・安心といった言葉が、頻繁に使用されるようになった。その背景には、食に対する信頼性が失われたことがある。

安全と安心は、同じような意味合いで使用されているが、実際の意味は異なっている。食の安全とは、「安全な食物とは」と言い換えると理解しやすい。つまり、食べても体調が良くも悪くもならないものである。毒物を含む食べ物は、当然体調が悪くなり、時には死に至ることもあり、安全な食物とはいえない。人は以前自然に存在するものを食し、安全なものとそうでないものを区別してきた。時代が進んでくると、時には毒をもつものでも調理法で毒を抜き安全なものにして食したり、食物を加工し、保存したり、変色しないように薬剤を使用するようになってきた。これらの薬剤を使う上で、安全であることを確認し、使用法を決めてきた。こうしたことが、現在の添加物の使用基準や農薬等の残留基準につながってきている。安全に食するために法的な基準が設定されている。

食の安心とは、「安心して食できる食物とは」と言い換えると、理解しやすい。気持的な要素が大きく、たとえ、安全な食べ物でも信頼がなければ、安心して食べられないということになる。法を整備しても消費者との信頼は生まれず、信頼は、食物を供給する側と食する側の間に生まれると考えます。国が法を整備し、食の安全を確保するための組織を作ったにもかかわらず、再び2007年に起きた中国製ギョウザの農薬混入事件などの事件が起きた。この事件は不可抗力的な事件ではあるが、食品を作る側のモラルが問われた。

食の安全・安心をこのように考え、現在流通している食品の公的な検査を行う立場として、何を考えて、検査にあたっているかを紹介する。

山口 之彦 氏
  江崎グリコの品質保証について
                              濱 芳明 氏  江崎グリコ蒲搦磨@品質保証部長
  

T.はじめに

江崎グリコは菓子、アイスクリーム、加工食品、健康食品の4つの分野で事業を行っている。またグループ各社ではチルドデザート、乳、飲料、畜肉製品、食品原材料、食品添加物、育児用粉ミルクなどを製造販売している。あらゆる温度帯、年齢層をカバーする小粒ながらバラエティに富んだ製品群を持つ食品グループである。

U.品質保証
(1)  品質方針「私たちは、お客様の安全・安心を最優先にして、すべての製品とサービスを提供します。」

(2)品質に関する基本ルール

(広義の)品質に関する弊社の全ての施策を明確に規定した品質管理基準であるQMP(Quality Management Practice)を策定し運営している。QMPは適宜改訂され、社内イントラネット上で全社に周知され実行される。あらゆる部門は、QMPを必ず遵守することが要求される。いわゆるローカルルールは許されない。

(3) <第1の品質保証> 各段階での品質保証施策を実施している。
@企画設計段階の安全、品質保証
 ・  PLチェック(製品、おもちゃ、販促品)
 ・  新規原材料業者、委託生産業者へ第三者的品質監査
A製造段階の安全、品質保証
 ・ 金属探知機と軟X線検査機のダブルチェックによる異物対策
 ・ 賞味期限印字のカメラによる全数保証

B販売(市場)段階の安全、品質保証
 ・  品質関連部門が参加するリスクマネジメント会議(クレーム分析会議)を毎日実施することにより、  拡 
   大性防止施策、健康危害クレームへの迅速な対応
 ・  企画設計上のクレームは、企画研究部門へ迅速なフィードバック

(4)<第2の品質保証> 表示に関するコンプライアンス

 ・景表法不実証広告規制(消費者庁)、JAS法表示違反公表指示(農水省)等表示法規制へのコンプライ 
  アンスの確保
 ・ 表示根拠(データ)の第三者的確認 (誇大、虚偽表示防止
 ・ 基準、規約等の薬事法を含む法規制に沿った効果的表示の実現

V.フードディフェンス施策(悪意を持った意図的混入から食品を防御すること)
 2008年1月中国製冷凍食品に農薬が意図的に混入された事件に関して、弊社のレトルト製品を回収した苦い経験から最も重要かつ基礎的な施策として、フードディフェンスの実施を自社はもとより協力工場、原材料納入業者へ要請している。その概要を紹介する。

 濱 芳明 氏
 
  食品防御−食品製造および配送過程における人為的な食品汚染防止について−                                  赤羽 学 氏   奈良県立医科大学 健康政策医学講座 講師

我々が健康的な日常生活を送る上で、食事の占めるウェイトが非常に大きいことは言うまでもない。バランスの良い食事をきちんと摂取することは重要であり、毎日の「食」は我々の健康を支える上で基本中の基本といえる。しかし、その食品や食材そのものが「危険な物」であっては、健康的な日常生活どころか、我々に生命の危険をももたらしかねない。

近年、従来の「食品安全」の概念とは別に、「食品防御(フードディフェンス)」という考え方が唱えられるようになってきた。「食品安全」とは、例えば残留農薬などのように、従来の食品安全基準やランダム・サンプリングで検証が可能なものであるが、意図的に異物や毒物などの危険物質を混入する「人為的な食品汚染」に対しては、「食品安全」の考え方をさらに進めた「食品防御」の視点が必要となる。「食品防御」は食品への意図的な異物混入や汚染に対する安全管理を目的とするものであり、「食品を攻撃対象にして、悪意を持って食品の安全に危害を加えようとする人が存在する」という前提に立ち、それに対してどのように対処するか、防御するかを考えるものである。「どのような事件」を起こし、「どうやって社会的不安をあおろうとしている」のか、あるいは「どうやって今の自分の不満をこの会社にぶつけようとしているのか」ということを予測し、それを未然に防ぐ、あるいは被害を最小限にくい止めるための方法を考えるものといえる。わが国の食品の製造工程における高度な衛生基準は、HACCPシステムに基づいて維持されているが、食品に対して意図的に毒物を混入するようなケースは、あまり想定されていないため、HACCPでさえ多くの弱点が残されている。

我々は厚生労働科学研究の一つとして、「人為的な食品汚染」に対して、どのような「自己防衛」が可能かを研究してきた。その成果を踏まえ、食品防御の意義、必要性、食品企業においてどのような対策があるか等について言及していきたい。また、被害を最小限にくい止めるための方法として、我々が現在日本生協連と協働で取り組んでいる研究課題「症候群サーベイランス」と「食品の市販後調査(PMM: Post Marketing Monitoring)」に関しても少し紹介したい。

赤羽 学 氏
総 会


 懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
日本穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai nemoto@miyakeseifun.co.jp   
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