2011年 日本穀物科学研究会
第148回例会
2011年12月3日(土)13:00より高津ガーデン 3階 カトレア (大阪市天王寺区東高津町7-11、Tel 06-6788-3911)で開催いたしました。 |
テーマ | シンポジューム 『小麦の生産、流通から最終製品における動向について』 |
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講演 | 「気候変動による小麦の現状と育種の取り組み」 長澤幸一氏 北海道農業研究センター 小麦・ソバグループ |
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日本の小麦育種の方向性 日本の小麦の育種は、多収量の農業特性、耐病性および品質の向上を目標として進められており、約30品種が普及している。生産量の多くは日本めん用である。 農水省の「食料・農業・農村基本計画」では、小麦の生産量を2008年度の88万トンから2020年度には増産する目標を掲げており、これを達成するためには、自給率が極めて低いパン用、中華麺用の品種の育成、普及が特に望まれている。 気候変動による小麦の生産の現状 1)小麦の栽培と気候条件 小麦は元々乾燥地帯の作物であり、小麦の栽培にとって開花期以降に雨が降らなくて、夏季に高温にならない気候条件が望ましい。開花期以降の多雨、多湿では赤かび病(かび毒DONの問題)が発生し、収穫期前後の降雨により穂発芽の被害をもたらす。穂発芽により小麦α-アミラーゼ活性が上昇し、デンプンが分解され商品価値が落ちる。夏季の高温により小麦の出補から成熟までの登熟期間が短くなる傾向が有り、子実の小粒化、減収といった被害をもたらす。さらに、かび、ウイルスによる病害も増加することも懸念される。 2)最近の気候変動による小麦の生産の現状 今回は、小麦の国内生産量の60%を占め、国内で最も小麦の生産に適している気候条件である北海道における状況を解析した結果を中心に報告する。(収穫期7月末〜8月) 北海道では2009年7月の低温、長雨により穂発芽の被害が発生し、生産量が前年比27%減となった。2010年の夏季の記録的な高温による大幅な減収(前年比16%減)の被害が発生し、異常気象による不作が続いた。過去のデータと合わせ、気候条件と穂発芽被害および減収の関係、4月の気候条件から小麦収穫量の予測等について解析した結果を述べる。 3)気候変動に対する小麦の育種の取り組み 気候変動の予測は難しいが、それに対応した小麦の育種は今後の重要な課題になろう。近年は温暖化傾向であり、これに伴い被害の増加が予測される赤カビ病、縞萎縮病の耐性を強化した品種の開発が温暖化への対策になろう。また、多雨による穂発芽の被害も人為的な対策手段はないため耐性品種の開発が進められている。また育種の開発期間の短縮化も進めている。 縞萎縮病:土壌伝染病のウイルス病で葉に黄白色の縞模様が発生し、株全体が委縮し減収をもたらす。 土壌中のウイルスを根絶することは困難である。道南より南で全国的に発生している。 |
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長澤 幸一 氏 | |||||
統計で見るパン業界 高家 正史 氏 株式会社ベーカータイムス社 代表取締役 |
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パンの普及と今後の穀物事情 総務省統計局の家計調査によると、平成21年度の1ヵ月平均消費支出は、1世帯当たり300,936円で、本書2009年度版発刊以降の平成22年1月から23年6月までの18ヶ月間の平均286,630円と比較すると13,306円減少している。これは、長引く景気低迷による安価志向が定着した結果と言えるだろう。 穀類などが消費支出に占める割合は、3.04%、パン類は1.65%となっている。しかし、下表でも分るように、18ヶ月間の合計で見ると米単品は40,435円、パン類は84,904円と2倍以上の消費支出の差が出ている。支出比率でもパン類は若干ではあるが向上している。 但し、米は家庭で消費する米穀店やスーパーで購入するものに限っており、CVSなどで購入する弁当やおにぎりの米は含まれていない。 今、世界の飢餓人口が急増した2008年には、世界の穀物生産量は過去最高の22億トン(農林水産省調べ)を記録した。もしこれが世界に住む68億人に平等に分配されていれば年間160s(厚生労働省平成20年国民健康・栄養調査)。世界では穀物に加えて野菜や肉、魚などが生産されていることを考えると、全ての人たちが十分に食べられるだけの食べ物が生産されていることになる。 加工工程で生じるロスや食べ残しを如何に減少するかも、今後の課題になる。 パンの生産量の推移 食料需給研究センターが発表している「食品産業動態調査」によると、平成21年度のパンの生産量は、合計で約117万8541トンで、120万トンを割り込んだ平成20年よりも、さらに0.2%減少した。しかし、平成22年度には、120万5066トンと2.3%増え、3年ぶりに120万トン台の生産量となった。 昨年の猛暑は、パン業界に大きな影響を与えるのではないかと懸念されたが、「冷やして食べるパン」などの季節商品が功を奏したのか、結果として生産量アップに繋がった。生産量の縮小傾向が増産への方向転換できたのは、食シーンを考慮した提案型の販売や新製品の開発によると考えられる。 今後も生産量の維持拡大に一層の力を注いでもらいたい。 パン製造業の実態 経済産業省経済産業政策局調査統計部が2011年6月に公表した「工業統計表」より、パンに関連したデータを抜粋した。 出荷総額は、ほぼ毎年増加し2009年は1兆4572億円の規模となった。事業所と従業員数は、毎年減少しているが、従業員の平均現金給与は2005年以降、上昇している。これは、機械化や効率化が進んだとは言えるが、最低賃金の上昇に伴う人件費のアップも考えられる。リテイルベーカリーでは、慢性的な人手不足状態が続いていると言われており、市場規模にあった雇用問題の解決を業界全体で考えなければならない。 2008年の菓子製造業の従業員数は271,084人で、現金給与総額は7,613億100万円。平均現金給与は280万8,358円となる。あくまで平均であるが、菓子製造業に比べパン製造業は給与で年間25万円以上、上回っていることになる。 また、品目別出荷金額では、食パンと菓子パンは増加しているが、2009年の調理パン・サンドイッチは前年に比べ極端に減少し、2004年と変わらない出荷額になった。 |
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高家 正史 氏 |
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北米における穀物生産、流通の地勢図の変化と今後の見通し Wataru Utsunomiya、 U.S. Wheat Associates Tokyo Office Director |
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2007/2008年に続き、今年も大相場かと思われたものの、外部資金の商品相場からの撤退も響き、新高値更新の場面は当面考えにくくなっている。 一方、水資源を含む土地や資源の限度や将来の人口増加予測から、長期的な高値予測が語られて久しい。 しかし、現実には、目先のVOLATILITUの高さはあらゆる観点で無視できないものに成っている。 価格が上がれば生産意欲を刺激する、一方、与信(カネ)がなければ需要を満たす買い付けは行えない。 農家の経済原則を踏まえた、現実的な対処、変化する経営手法、更に進行する穀物取引業界での寡占化、合従連衡等を直視、又、輸送面で鉱物資源と競合する、穀物の現実を踏まえ、今後の動向について短中期的視野から展望を語りたい。 生産者のCASH FLOWを価格支持政策等に又供給を援助や政府信用保証に頼るような財政依存型のそれから脱却して久しい。事業経営の観点から、必然的な変化を強いられる農業経営の一端に触れたい。 Hi-Tecに深化する農業、また、Gm-Crop に関する生産者側の考え方も踏まえ、米国中西部と西海岸3州の麦と北米太平洋岸(Canadaを含む)穀物流通の2つに軸を置いて解説したい。 |
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Wataru Utsunomiya 氏 |
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懇親会 | |||||
連絡先 | 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5) 日本穀物科学研究会事務局 根本(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094 E‐mai:nemoto@miyakeseifun.co.jp |
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