2010年 日本穀物科学研究会

第144回例会

2010年12月4日(土)13:00より高津ガーデン(大阪市天王寺区東高津町7-11)にて第144回例会を開催いたしました。 
テーマ  『米麦の機能性を重視した製品開発の最近の取り組みと展望』
 
講演  小麦粉水溶性画分の有用物質
                              金藤 岳夫 氏 長田産業

 小麦粉から小麦澱粉,小麦グルテンを分離後の廃棄物から有用で付加価値の高いものを商品化する検討を行った。本講演では小麦粉の水溶性画分より得られる小麦粉アルブミンのα-アミラーゼインヒビターとしての機能性とそれを応用した商品について紹介する。また,その他の有用物質として,酵素群について調査したので報告数する。
 
 日本における糖尿病が強く疑われる人は890万人と言われている。更に,糖尿病の可能性が否定できない人の,1320万人を含めると,その数は2210万人に達している。近年の食生活の変化や慢性的な運動不足により,その数は年々増えている。小麦粉の水溶性蛋白質である小麦アルブミンは哺乳類の唾液,膵臓中のα-アミラーゼを阻害する働きをもつ。これにより食事に含まれる澱粉の消化・吸収を抑制し,食後の急激な血糖値の上昇を緩和する。糖尿病の予防や糖尿病合併症の進行を食い止める効果が期待できる。この機能を応用した小麦アルブミンのサプリメントを開発したので,実際に使用した場合の効果と共に紹介する。

 酵素群にについてはβ-アミラーゼ活性とキシラナーゼ活性があり,β-アミラーゼについては,すでに商品化しているので,その使用例と共に紹介する。今回,新たにキシラナーゼ活性が見つかり,その性質について報告する。

金藤 岳夫 氏
  焙煎米糠抽出物の開発と利用
                            鈴木健太 氏  奥野製薬工業株式会社 総合技術研究所 食品研究室  
 米油を製造する際,原料米糠から有機溶剤を用いて米油が抽出されているが,抽出した後には脱脂米糠が残る。脱脂米糠は通常廃棄されるか,または肥料などとして利用されているのみで,有効利用されている例は少ない。そこで脱脂米糠の有効利用を目的として,開発された物が焙煎米糠抽出物である。この焙煎米糠抽出物は,脱脂米糠を倍戦後,熱水抽出,アルコール抽出し製造される。焙煎米糠抽出物は,食品添加物として既存添加物として登録されており,これまでは主に魚臭や畜肉臭などの消臭剤として利用されてきた。我々の研究室では,この焙煎米糠抽出物の消臭剤以外の,用途について積極的に開発を行っている。本講演では,焙煎米糠抽出物の消臭効果と,これまで明らかにしてきた抗酸化効果について解説し,その利用例としてラット体内での抗酸化効果,小麦粉生地のスペック(ホシまたは黒点)抑制効果について紹介する。

・消臭効果
 焙煎米糠抽出物は
トリメチルアミン(魚臭),ジアニルサルファイド(ニンニク臭),アンモニアなどに対して強い消臭効果を有している。焙煎によって増加するマルトールおよびマルトール誘導体やポリフェノールなどが臭気物質と化学反応などを起こすことで消臭される。
・抗酸化能
 焙煎米糠抽出物はトコフェノールと,同等の油脂酸化防止効果を持つと共に,老化の原因と考えられている,活性酸素を消去できる効果がある。その抗酸化能の特徴として,特に酸化力が強いとされているヒドロキシラジカルを,消去する作用が強いことが判っている。
・抗酸化能の利用例
@ラットにストレスを負荷させると体内にて,過酸化脂質が増加するが,焙煎米糠抽出物投与群では,その過酸化脂質濃度の増加を抑制する事ができる。
A食品中においては小麦粉生地に発生する,スペックを抑制する効果を見いだしている。スペックは主に小麦粉中に混入したふすまに含まれる,酸化酵素が小麦粉成分を酸化するためと考えられており,一旦生地にスペックが発生してしまうと,商品価値が著しく低下してしまう。焙煎米糠抽出物は,このようなスペックの発生を,効果的に抑制する事ができ,それは焙煎米糠抽出物の抗酸化作用,および酸化酵素阻害作用によるものだと考えられた。このスペック抑制効果に関しては既に実用化している。
 鈴木 健太 氏
 
   製粉特性に優れる国内産小麦品種開発の現状と課題
                    中村 洋 氏   農業・食品産業技術総合機構(農研機構) 作物研究所 主任研究員

 日本のめん用軟質小麦品種は,製粉特性で主要小麦輸出国の小麦品質に劣ると実需者から指摘されている。今後,わが国における持続的な小麦生産・増産を図る上でも,高い製粉特性に改善されたこむぎ品質・系統の育成が,最も重要な品質改善項目・品種改良(育種)目標である。最近,北海道で製粉特性に優れる(高製粉性)小麦品種が育成された。それは,めん用小麦品種「きたほなみ」(北海道立北見農業試験場育成),パン用小麦粉「春よ恋」(ホクレン育成)の2品種であり,高製粉特性の小麦品種として製粉会社など実需者からも注目されている。
 そこで,「きたほなみ」・「春よ恋」について概略を説明すると共に,高製粉特性の要因解析を行ったので解説したい(中村 2009,2010)。また,演者の所属する農研機構でも,高製粉特性の評価手法の開発,および,小麦品種改良を行っているが,粉粒度分布解析法を高製粉特性の評価指標の一つとしているので,紹介したい(中村 2006,2009,2010)
さらに,粉体特性,および,小麦粉中へのふすま混入量についても解析したので,報告する(中村 2008,2009,2010)。
 最後に,今後の小麦品種開発の課題・展望について議論し,関係各位の活発なご意見を頂戴した。
中村 洋 氏
懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
日本穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:nemoto@miyakeseifun.co.jp   
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