2009年 日本穀物科学研究会

第138回例会

2009年5月22日(土)13:00より高津ガーデン(大阪市天王寺区東高津町7-11)にて第138回例会を開催いたしました。 
テーマ  『機能性を有する澱粉の食品加工への利用の現状と今後の研究』

講演   各種加工デンプンの機能性と食品加工への利用の現状と今後
                   福田 元(日澱化學株式会社 研究開発室 商品開発課 主任研究員)

 太陽と水、そして炭酸ガスを原料とし、植物を通して生産される天然資源の「デンプン」は、これまでも安全でクリーンな資源として、毎日の食卓を飾る調理食品や調味料、さまざまな種類のパンや菓子類などに多く使用されています。しかし、「デンプン」には変質や老化といった欠点があり、その利用には限界がありました。
 また、最近の加工食品の形態や流通システムの多様化により、「デンプン」では対応しきれない多くの問題が出てきました。そこで、我々は天然資源の「デンプン」の特性を生かしつつその欠点を補い、用途に適した新たな機能を付加した「加工デンプン」を開発・生産しています。
 さらに、「健康」のキーワードの下、人体への影響については、非常に大きなウエイトを占めるようになってきております。このような健康に配慮した素材もまた、「加工デンプン」で提供できると考えております。  一方、200810月より「加工デンプン*」は日本でも食品添加物に指定されました。また、その安全性についても、厚生労働省では「食品添加物として適切に使用される場合、安全性に懸念がないと考えられ、一日摂取許容量を特定する必要はない。」という見解を出しています。
 今回、これら「加工デンプン」の機能について、その原料でもある「デンプン」の種類や性質の違い、また「加工デンプン」の種類と機能の違いといったものについて様々な食品例を交えながら詳細に紹介していきたいと考えております。

     アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン及びリン酸架橋デンプンの11種類の加工デンプン。

福田元 氏
澱粉由来のリン酸化オリゴ糖カルシウム及び高度分岐環状デキストリンの開発について
                              西村 隆久( グリコ株式会社 研究企画室   室長 )  

澱粉は食品業界で最も使用されている原料の一つである。我々は澱粉を酵素処理することで、新たな機能性を付与し製品開発を行っている。本日は既に上市しているリン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)と高度分岐環状デキストリン(CCD)について紹介させていただく。

【POs-Caについて】
 馬鈴薯澱粉はその組成にリン酸エステル結合を含んでいることが知られている。この馬鈴薯澱粉中のリン酸エステル結合に注目し、澱粉の加水分解物から全く新しいオリゴ糖、すなわちPOs-Caとして調製することに成功した。 POs-Caはう蝕原性細菌であるミュータンスレンサ連鎖球菌に資化されず、ショ糖の発酵によるプラーク内のpH 低下を緩衝作用によって抑制した。さらに、ショ糖およびミュータンスレンサ菌の存在下で人工プラーク(非水溶性グルカン)形成およびエナメル質の脱灰を有意に抑制した。POs-Ca配合ガムの初期う蝕の再石灰化促進効果を検証した結果、POs-Ca配合ガムは高い再石灰化促進効果を示した。今回、初期う蝕の再石灰化促進効果を中心にPOs-Caのオーラルヘルスへの新しい機能に関する最近の研究を紹介したい。

【CCDについて】
 CCDはワキシーコーンスターチにブランチングエンザイムを作用させた分子内に環状構造を持つ澱粉である。重合度が約900のグルコースポリマーであり還元末端側に環状構造を持つこと、水溶性が高いこと、極めて老化しにくいこと、水溶液の粘度が低いなどの特徴を持っている。 持久運動をはじめ様々な運動において糖質(炭水化物)の補給は運動によるグリコーゲンの消費を補うために重要である。持久運動時の糖質補給を目的としたスポーツドリンク用素材としてCCDが有効であるかどうかを評価するために、動物およびヒトの持久運動に与える効果を様々な角度から検証した。
 CCD溶液は、水またはグルコース溶液を投与したときと比べてマウスの限界遊泳時間が有意に延長した。CCDを配合したスポーツ飲料を作成し、ヒトボランティアに摂取させると、水、グルコース飲料、またはデキストリン飲料を摂取させたときと比較して、飲料の胃通過時間、被験者の自己申告胃部膨満感、およびあい気回数が有意に低値 (p<0.05) を示すことがわかった。

トレハロースやデンプン由来オリゴ糖の機能性と食品への応用、及び今後の展望
                    福田恵温((株)林原生物化学研究所

 林原生物化学研究所は「微生物の高度利用」をメインテーマに掲げ、新規糖質関連酵素の検索、新規糖質の開発を積極的に行ってきた。ここでは我々がこれまでに行ってきた糖転移酵素を用いて作成したデンプン由来オリゴ糖の応用について紹介したい。

1.トレハロース
  砂漠の植物が乾季をじっと耐える時、あるいは酷寒の地の蛙が冷凍状態で冬眠する時、体の組織を保護するためにトレハロースを体内に貯えると言われている。トレハロース(α-D-Glucopyranosyl-1,1-α-D-glucopyranoside: α,α-Trehalose)はグルコースの還元基同士がα結合した非還元性二糖であり、細菌・酵母などの微生物、茸・海草・昆虫などの動植物に広く存在する天然糖質の一つである。
 我々はArthrobacter属の菌体内にデンプンからトレハロースを生成する反応系を見出した。詳細に調べた結果、マルトオリゴシルトレハロース生成酵素(MTSase)と、トレハロース遊離酵素(MTHase)の共同反応によることが分かった。現在、この両酵素と種々の酵素を組み合わせてデンプンから結晶トレハロースの製造を行っている。
 トレハロースのもつデンプン老化防止機能を利用して、和菓子を始めとした多くの食品に用いられている。さらに野菜の鮮度を保ち、魚や肉を加熱する際に発生する異臭を抑えるなど、食品加工に適した性質を有している。また移植臓器の保存性向上に有効であることが分かり、肺移植、すい臓移植の際に臓器の保存液にも使われている。
 肌の保湿性を保つ目的で化粧品にも用いられている。特にここ数年来話題になっている高齢臭(おやじ臭)の抑制効果も有することから、男性化粧品への応用が期待されている。

 その他、最近神経薬理学分野で注目されているトレハロースの機能に関する話題についても紹介したい。

2.環状四糖
 Bacillus globisporus C11株由来の新規糖転移酵素(二種類)がデンプンに作用し、環状四糖(α-1,6→α-1,3→α-1,6→α-1,3結合)を生成することを見出した。環状四糖は高度な難消化性オリゴ糖に属するものと考えられ、ラットに経口投与したところ血漿中のトリグリセリド量が低下、さらには腸管膜や腎臓周囲の脂肪量が減少することが分かった。環状四糖は腸内の胆汁酸と相互作用することにより摂取した脂肪酸と胆汁酸とのミセル化を阻害し、脂肪酸の体内への吸収を抑制しているのではないかと考えられている。

3.新規多分岐グルカン
 新たに単離した土壌細菌PP710株の培養液をデンプンに作用させたところ、食物繊維として80%以上のグルカンを生成した。本物質の重量平均分子量(Mw)5,350であり、α-1,6結合49.6%α-1,3結合2.5%α-1,3,6結合が6.3%認められた。これら分岐構造の大幅な増加が食物繊維高含量に寄与していると考えられた。PP710株由来酵素の利用は、難消化性糖質含量の高い多分岐グルカンの製法として今後の応用が期待される。

福田 恵温氏
総合討論
懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
日本穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:k-kondoh@key.ocn.ne.jp)   
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