2005年 日本穀物科学研究会

第122回例会

2005年5月13日(金)13:30より大阪国際交流センター3階会議室にて第122回例会を開催いたしました。 
テーマ  
 『日本人好みのうどん研究の最前線』


講演  コムギの粒色と休眠性
                    岡山大學 資源生物科学研究所   野田和彦 氏

 コムギの収穫期に降雨が多い地域ー日本やイギリスー或いは最近の気象の変化により収穫期に降雨が多くなった所では,収穫前にコムギの穂の中で種子が発芽する現象「穂発芽」がよく見られる.穂発芽は収穫量の減少だけではなく,製品である小麦粉の品質を劣化させ,小麦粉製品の麺やパンの品質を悪くする. この穂発芽を回避するための育種的研究では,現在,主に2つの研究がなされている.一つは,コムギの収穫期を降雨期より早めるために,熟期を早めるための遺伝子の研究ともう一つは種子が吸水しても発芽しないように種子の休眠性を強めるための遺伝子の研究である.
 アブシジン酸(abscisic acid, ABA)は,発芽抑制作用のあることがよく知られている植物ホルモンである.種子でのABA合成や分解そしてABAに対する種子胚の感受性が種子休眠の強弱を左右する大きな要因として関わっていることが,アラビドプシス,トウモロコシ,コムギの突然変異体の研究で明らかになっている.胚のABA感受性とは,種子胚をABA溶液中で発芽させたときに,どれほど敏感に反応して発芽阻害を受けるかの程度である.現在までの所,種子胚のABA感受性がコムギ種子の休眠の強弱を決める最も大きな要因であると考えられている.その理由は,休眠が強い種子と弱い種子で比較すると,ABA量に大きな違いがないのに対して胚のABA感受性は非常に異なるからである.休眠の強い種子の胚ほどABAにより発芽が抑制される.この胚のABA感受性は,細胞のABA信号伝達系(ABAの信号を細胞内(遺伝子や蛋白)に伝える仕組み)により構成されると考えらている.現在まで,約40近くのABA信号伝達系の突然変異や遺伝子が知られているが,コムギの種子休眠に対応する遺伝子はまだ明らかでない.
 コムギ種子休眠と密接に関わっている形質として種子色が知られている.種子色の変異が種子休眠の程度も変化させる.コムギやトウモロコシの種子色(フロバフェン或いはプロアントシアニジン)はフラボノイド合成系により合成されるが,トウモロコシではこのフラボノイド合成系酵素遺伝子の転写制御と共にABA信号伝達に関わる因子Vp1が知られている.このVp1のortholog, TaVp1がコムギより単離されyたが,コムギの種子休眠との関係は認められなかった.我々は現在,コムギ種子色を決定するR遺伝子を単離し,myb系の転写因子であることを明らかにした.アラビドプシスでは,ABA信号伝達にmyb系,bHLH系転写因子が関わっていることが知られている.今後,コムギのmyb系転写因子やbHLH転写因子と種子休眠との関係を明らかにしていきたいと考えている.

野田和彦氏
  各種オーストラリア小麦粉の品質とわが国における消費動向
                    熊本製粉(株) 常務取締役  川崎貞道 氏  

 わが国の小麦の消費量は、年間約600万トンを推移しており、このうちの約20%の小麦がオーストラリアから輸入されている。オーストラリアからは、小麦として輸入されるほかに、小麦を原料とした1次加工品である小麦粉調製品が年間約1万5千トン、小麦グルテンが年間約8千トン、小麦澱粉、そして二次加工品の乾麺等、様々な形に変え輸入されている。オーストラリアのASWグレードの小麦は、他の外国産小麦と比べ澱粉の糊化粘度が高く、蛋白質の含量も10%程度で麺(うどん)に適しているため、そのほとんどが麺用として消費されている。オーストラリアの小麦を使用した麺の色調が鮮やかなクリーミーな色を呈するのもその特徴といえる。オーストラリアの各研究機関がわが国の麺の嗜好に合うように研究を重ねてきた結果とも言える。
 わが国の麺の市場は、小麦粉ベースで年間約142万トン(2003年)であり消費量は頭打ちである。特に2004年の生めん類は厳しく、その生産量は、対前年の2.2%減である。麺市場は、今後人口減少、高齢化にともない非常に厳しい環境にさらされ予断を許さない状況である。
 製粉及び麺業界では市場の活性化を狙い、産地にこだわった国内産小麦粉の開発や、栄養価の高い小麦粉の開発、簡便性を追求した商品、及び健康志向やシニアマーケットをターゲットにした商品を続々と市場に投入してきている。商品の開発を急務とする一方で食品の安全性の要求は高まり、必要以上の添加物を避ける傾向にある。小麦自体の品質に特徴があり、他の資材や添加物無しで麺の品質を向上させたり機能性を持たせたりすることができればまさに市場のニーズにあう商品になると考えられる。

オーストラリアの小麦研究機関ではまだ市場にあまり知られていない興味深い小麦品種の研究がなされている。通常の小麦に比べ、キサントフィルの含量が2倍ある小麦、外皮100gにアントシアニンを119mg含む紫小麦や、アミロース含量が高い小麦など特徴をもった様々な小麦の開発が進められている。また、オーストラリアでは、毎年新しい品種がリリースされており、最近公開されたEGA Blanco、Kalka、Reess、GBA Rubyなどの品種も用途は様々であるが品質に特徴をもった品種である。
 オーストラリアの特徴のある小麦を利用し、食感や味に特徴をもたせた麺が多く上市され、麺の市場を活性化することを期待したい。

川崎貞道氏 
     Wheat Breeding in Australia - Noodle Wheat and Other Grades -
                        Mr.Bob Cracknell   AWB services Limited 

Outline of Presentation     
   
Background ? production and composition of Australian wheat crops,        Wheat breeding in Australia,
  GRDC Review and new structures,
  The new players and their significance for Japan,
  Maintenance of quality
     
The AWB Variety Classification system,
  
AWB’s position on GM wheat

Mr.Cracknell
   History and Development of Wheat for Udon in Western Australia
        Goverment of Western Australia  Department of Agriculture  Mr.Graham Crosbie

Outline of Presentation   
    
Reputation of Western Australian wheat for udon,
      
Key initial quality research,
  Introduction of segregation and separate pooling,
  Research undertaken in Western Australia, 
     
Breeding of new wheat cultivars,     
 
 Future directions,

Mr.Crosbie


 懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:miyake@mbox.inet-osaka.or.jp)   
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