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テーマ |
『21世紀の食の安全、健康志向を目指した食品開発の展望』
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開会の挨拶 |
本会会長 大阪府立大学農学部教授 森田尚文氏 |
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講演 |
澱粉の構造・機能特性の研究方法―米澱粉を中心に
大阪市立大学名誉教授、福山大学名誉教授 不破英次氏 |
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20世紀後半の科学と技術の進歩は目覚ましく澱粉の科学と技術に関してもその例外ではない。ここでは次の3点を中心に澱粉の研究方法の進歩について述べる、
1) 澱粉の原料(素材)
研究に用いる澱粉は素性の明らかな原料から自分で調製するのが望ましい。さらに近交系あるいは準同質遺伝子系統(Near
isogenic line, NIL)の素材を使用するのが一番である。生物工学の進歩により変異剤処理、細胞融合あるいは遺伝子の導入など新しい技術を用いて今までにはない構造あるいは性質をもつた澱粉を蓄積する植物素材が開発されている。しかし同時に既存の遺伝子資源の有効利用も忘れては成らない。
2) 澱粉の構造研究法
特に種々のゲル濾過カラムクロマトグラフィー(GPC)と澱粉の枝きり酵素処理を組み合わせた方法の進歩が目立つ。すなわちSephadex,
Sepharose, ToyopearlなどによるGPC、低角レーザー光散乱光度計と示差屈折計を検出器とした高速液体クロマト(HPLC-RI-LALLS)、パルスアンペロメータを検出器とした陰イオン交換樹脂高速クロマト(HPAEC-PAD)さらに還元末端ラベル高速クロマト(labelingHPSEC)などがある。
3) 澱粉の機能特性研究法
澱粉の熱特性、粘度特性、糊化・老化特性などを研究するため種々の新しい方法があるが、ここでは示差走査熱量測定(DSC)とRapid
Visco analyzer (RVA)による粘度特性測定について述べる。
4.米澱粉を用いての研究
われわれは農水省の総合研究「新形質米」プロジエクトで作出された新しい米を含む多くの米試料から澱粉を調製しそれらの構造と性質を調べた。それらの中でアケノホシを親とする一連の米試料の澱粉は普通の日本型米の澱粉に比べてDSCによる糊化温度が高く糊化熱が大きいこと、これらの澱粉は普通の日本型米の澱粉に比べてアミロペクチンの短い鎖が少なく長い鎖が多いことをイソアミラ?ゼで枝きりした澱粉のHPLC-RI-LALLSで明らかにした。また夢十色やホシユタカの澱粉あるいは白米粉末についてRVAを用いて測定した粘度曲線の特性値の1つセットバック(SB)が日本型のものに比べ高いことに気がついた。SBは澱粉の老化と関係することが知られているので、アミロペクチンの鎖長分布を超長鎖(SLC)も含めて検討した。すなわちDP
6 ? 50程度はHPAEC-PADで測定した。また、見かけと真のアミロ?ス含量及びSLC含量は澱粉あるいは分離精製したアミロペクチンをイソアミラーゼで枝きり後GPCにかけ分析する方法を開発した。その結果SLC含量は見かけのアミロース含量の高い米、インド型あるいは日印交雑の米アミロペクチンに多いことを確認した。例えは夢十色で約16%、ホシユタカ10%であった。またもち米にはSLCは含まれない。
その他SLCに関してSLC含量の高い澱 粉はRVAによるSBの値が大きい、SLC含量の多い澱粉のアミロペクチンはヨウ素吸収曲線の特性値BVが高く最大吸収波長(lmax)が長い、SLC含量の多い澱粉を含む炊飯米(白飯)は硬く、付着性が低く、老化しやすい、さらにSLCの生合成にはWxa
protein(澱粉粒結合型澱粉合成酵素Ia, GBSS Ia)が関与する可能性が高いことなどが分った。
これらのことを確かめるため、(独)農業技術研究機構作物研究所梅本博士らによって作られたNIRの試料米を用いて実験を行った。すなわちWxa,
SSIIa, SSIの3遺伝子が座乗している第6染色体に着目し、日本晴(日本型)とKasalath(インド型)を両親とて作成されたNIR試料米より調製した澱粉についての結果を紹介する。
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不破英次氏 |
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世界の麺食文化―その歴史と現状
国立民族博物館名誉教授 |
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1.問題点
コメ、ソバ、ハダカエンバクなども麺に加工されるが、それらはコムギ粉を原料とした麺つくりから派生したものと考えられる。図1は19世紀初頭の世界で麺状食品が普及していた地域を示す。アジアにおいては、北はモンゴル、南は東南アジア、東は日本、西は中央アジアのオアシスを経由してカスピ海東岸にいたる地帯が麺の分布域である。さまざまな証拠から、アジアの麺は中国から伝播したものと考えられる。ヨーロッパにおいては、イタリアで麺が食べられていた。コムギは西アジアに起源した作物で、シルクロードを経由して中国に伝えられた。それではコムギ粉を麺に加工する技術は、コムギとともに中国に伝えられたものか、それとも中国、イタリアのそれぞれで独立発生したものであろうか。
2.中国での麺の始まり
コムギとそれにともなう回転式石臼が中国に伝えられたのは戦国時代(BC.403〜221)のことである。前漢代には華北平野がコムギの産地となり、当時の文献に「餅」があらわれる。古典中国語ではコムギ粉を「麺」と記し、コムギ粉を「餅」と表記した。中国は古代から、蒸す料理と、椀型の食器と箸を使用して食べるスープ状の料理が発達していた。パン状にして焼いて食べるコムギ粉が、中国においてはスイトンのようにスープに入れて食べる「湯餅」と、蒸しパンである「饅頭」に変形したのである。
「湯餅」はワンタン、餃子のように薄い皮に加工する「麺片」と、うどん状に加工した「麺條」の系統に分化する。
3.アジアの麺の製法の分類と分布
製麺法を大別すると次の5系列に分類される。
1)手延べラーメン系列
2)そうめん系列
3)切り麺系列
4)押し出し麺系列
5)河粉系列
この5種類の製麺法のすべてが中国で成立し、周辺地域に伝播した。(図2参照)。コムギ作をしない地域で、グルテンに乏しい穀類を麺状に加工する技術として考案されたのが、4)押し出し麺系列と、5)河粉系列の製麺法である。
4.中国とイタリアをつなぐ
12世紀のシチリア島でイットリーヤ(itriya)という乾麺が製造されたことがわかる記録があり、それがイタリア本土に広まったものと考えられる。シチリア島は一時アラブの支配下にあった場所である。近年の研究で、、モロッコから北アフリカを経て中東にいたる中世のアラブ文明において、イットリーヤが分布していたことがわかる。一方、イットリーヤと同じものが中世の中央アジアに分布していたことも判明した。そこで、中国起源の麺が中央アジアを経由して、ペルシャ、アラブ文明圏にもたらされ、それがイタリアのヒモ状のパスタになったと考えられる。ただし、原料に硬質コムギを使用する、螺旋運動による押し出し麺の製法を考案した、ソースであえて食べるなど、イタリア独自の麺文化が形成されたことも留意される。
5.麺の現代的展開
20世紀後半の日本で、麺食の歴史に画期的な発明がなされた。1958年のチキンラーメンと、1971年のカップヌードルの発売で、両者とも安藤百福氏の考案した商品である。手軽に食べられる即席麺は、まずアジア各地に普及したが、それは箸と椀で汁麺を食べる伝統のある地域である。パッケージが食器兼調理道具となり、フォークをそろえたカップ麺となると、箸、椀の文化圏をこえて普及した。
2003年に全世界で消費された即席麺は652億食であり、其のうち日本から輸出量は8710万色である。すなわち、世界各地で現地生産される、世界商品となっている。 |
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石毛直道氏 |
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Canadian Wheat Quality Control for the Japanese Market
カナダ・マニトバ大学名誉教授 |
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Japan buys 26% or 1.5 million tonnes of
its imported wheat quota from Canada. The high quality of Canadian wheat,
required by the Japanese milling and baking industry, is a key factor that
influences the decision to buy Canadian. Quality is controlled by a series of
scientific tests applied at four critical points in the wheat system from
breeding new varieties to loading of cargo vessels for export. Japanese cereal
scientists have contributed significantly to research on the quality
required by Japanese consumer.
The first critical point where quality is taken into consideration
is in the selection of the parents for breeding new varieties. All of the
required “quality” genes must be present in the parents. New varieties offered
by the wheat breeder for registration must meet two important quality-related
criteria. Grain of the new variety must be visually distinguishable from grain
of varieties already registered and commercially grown. End-use quality of the
new variety must be equal to that of the standard variety for the class. The
second critical point in the quality control system occurs at the delivery of
the grain by the farmer to the commercial handling facility. Here, the grain is
classified, by visual inspection, into one of seven classes. The classes that
are best known in Japan are the Canada Western Red Spring, used mainly for
bread, and Canada Western Amber Durum for pasta manufacture. Grain of a
specific class is segregated into numerical grades based on moisture content,
test weight, grain condition, and presence of impurities. Grain of the top two
grades of CWRS class is segregated according to protein content. Within a class
of similar varieties, protein content is the most important single quality
attribute for bread. The class and grade are checked at two more critical
points, this time by government inspectors, before the grain leaves Canada for
the export destination. Canada’s grain quality control systems are controlled
by one agency of the Federal Government, The Canadian Grain Commission. Future wheat
processing systems will require wheat of specific functional quality for
specific end-products. Rapid grain handling will require rapid automated
quality testing. Because “quality” is determined by many different attributes,
such as hardness, falling number, protein content, protein quality, etc., all
attributes will have to be measured by a single test or by a series of tests
which can be simultaneously integrated by computer. The “universal” wheat
quality test is yet to be discovered. New classes or varieties will be
developed to meet the requirements of new products. Specialized varieties will
be handled by identity-preserved systems. Pressure to release genetically
modified varieties will mount. Special
quality screening of these wheats will be required. Cooperation among all
sectors of the Canadian wheat system will be necessary to meet future wheat
quality requirements. |
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Dr.Bushuk |
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世界の穀物の現状と将来の展望
Mr.David
Iwaasa カナダ小麦局 東京事務所長 |
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Mr.Iwaasa |
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健康志向に対応した製品の開発と食の安全に対する話題提供について
山田雄司氏 山崎製パン株式会社中央研究所 所長代理 |
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弊社で取り進めてきたパン関連の話題として、以下の二件について紹介したい。
(1)健康志向に対応した製品の開発について
消費者の方々における健康の関心の高まりから、現在、パン市場においても様々な「健康志向」をコンセプトとした製品が見受けられる。弊社においても、過去にカルシウム、食物繊維、全粒粉、胚芽、玄米、大豆ペプチド等、健康イメージが高い素材を添加したパン製品を逐次開発・販売してきたが、健康に関する関心の高まりに反して、通常の白色パンと比べ、必ずしも消費者の方々に受け入れられたとは言い難く、大半の製品は発売後1年内には生産が中止されるという状況を繰り返してきた。その主な要因としては、@素材の健康イメージのみに依存し、パン製品としての絶対的品質として、食品に一番に求められる美味しさの面での追求が十分でなく、お客様に受け入れられなかったこと、また、A市場で健康的な裏付けのある各種食品が増大する中で、素材を添加しただけでは健康向上・改善機能のアピールが不十分であった、ことの2点が上げられる。そこで、現在、難消化性澱粉を使用し、通常のパン製品と同等の品質を有し、且つ、血糖値上昇抑制機能を付与したパン製品での特定保健用食品としての認可を受けるべく、取り組みを進めているので、その状況について紹介する。
(2)食の安全に関する話題の提供について
弊社では、法的に使用が認められているものの、平成9年以降、安全性の問題で使用自粛措置が取られてきた、パン用生地改良剤である臭素酸カリウムを使用した食パン製品2品の試験販売をこの6月から開始し、更に9月からは、その販売を全国に拡大した。平成9年に食品規格に関する国際的機関であるJECFA(FAO/WHO共同食品添加物専門家委員会)で食品添加物としての使用は不適当との判断が下されたが、その根拠になったのは、イギリス国内で販売されているパン製品に臭素酸の残存が見られたためであった。JECFAでの決定を受け、日本でもパン製品での臭素酸の残存に関する科学的な追及が十分なされないまま使用自粛に至ったことから、弊社では臭素酸カリウムの安全使用に関する研究を開始した。アメリカ・FDA(食品医薬品局)との共同研究を通じ、精度の高いパン中の残存臭素酸測定法を開発し、その分析法を用いて得られたパン製品中の残存状況から導き引き出された臭素酸分解・残存のメカニズムは、従来から考えられてきたものとは大きく異なるものであった。(社)日本パン工業会・科学技術委員会内に設置された科学技術委員会小委員会では、弊社の研究で得られた様々な知見を基に、適正製造規範の考えに基づいたパン製品での臭素酸カリウムの安全使用に関する自主基準を策定し、第三者機関による安全使用監視体制の整備も行なった。これらの臭素酸カリウムに関する一連の取り組みを紹介する。
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山田雄司氏 |
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当会創始者
松本博氏 |
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懇親会 |
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連絡先 |
三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:miyake@mbox.inet-osaka.or.jp) |