2004年 日本穀物科学研究会

第118回例会

2004年6月11日(金)13:30より関西大学100周年記念会館 第4会議室にて第118回例会を開催いたしました。 多くの方にご参加いただきました。
テーマ  
冷凍、凍結、不凍に関する最近の話題と食品への応用


講演 冷凍耐性、冷凍適性酵母の特性及びその動向
                        オリエンタル酵母工業叶H品研究所  中島亮ー氏
 日本での製パン用イーストの工業的生産は弊社により1930年に始まりました。この生産量は長期的に見ると右肩上がりになっていますが、短期的に見るとここ10年間ほとんど変化がありません。この動きは当然のことながら、日本でのパンの生産量に連動しています。この中にあり着実に伸びているのは冷凍生地市場です。かつてはアイテムが限定されていたこの市場も冷凍生地製造技術の向上と、これに伴う対応アイテムの拡大により大幅に製造量が増加しています。
 製パン用イーストの開発は、1930年代には既存の品種から日本市場での絶対条件である菓子パンの製造に要求される耐糖性の高いものを選抜することが主体でした。1950年代半ばより育種によるイーストの品種改良が行われるようになり、1970年代よりスクリーニング技術の発展に伴い、本格的に日本の製パン市場に向けた品種改良が行われるようになりました。この流れは1980年代の冷凍耐性酵母、次いで1990年代の冷蔵適性イーストの開発につながります。
 冷凍生地が日本で本格的に製造されるようになった当初、冷凍生地用イーストは性能的にも対応アイテム的にも十分なものではありませんでした。冷凍生地のアイテムの拡大に対応するため、冷凍生地用イーストには機能性(冷凍耐性)の向上、さらにはアイテム適性の向上が要求されるようになり、現在は各社から種々の優れたイースト品種が上市されており、冷凍生地市場の拡大とともに冷凍生地用イーストの生産量も増加しています。
 一方、冷蔵適性イーストは、リタード工程を伴う製パンに適合性を高めるために、冷蔵温度下で発酵が著しく抑制されるイーストとして開発されました。この機能の導入により、冷凍生地用イーストのアイテム適性をさらに向上させることが可能になります。
 今回は、最近開発されました弊社製品
  @USイースト:万能型、冷凍耐性イースト。
  ALT3イースト:機能性、アイテム適合性を向上させた冷凍生地用イースト。
開発の方向性を通して、冷蔵、冷凍耐性酵母の特性と市場での使用の動向を述べさせていただきます。  
中島亮ー氏

食品冷凍における液化ガス式凍結装置
 
                            日本酸素梶@ガスエンジニアリング部  太田英俊氏

コールドチェーンの発達や冷凍調理食品の普及に伴い、冷蔵倉庫は1万トンクラスが珍しくなくなった。また、国民1人当たりの冷凍食品年間消費量は、20年前には7 kgにとどまっていたが、2002年には17kgと大きく伸張した(日本冷凍食品協会調べ)。
食品を冷凍する方法には、大別して機械(冷凍機)式と液化ガス(液体窒素)式がある。機械式は1960年代に冷媒がアンモニアからフロンへ転換が図られたが、1997年12月に京都で開催された地球温暖化防止国連会議(COP3)でフロン規制スケジュールが決められたため、今日ではアンモニアやプロパン、炭酸ガスなどの自然冷媒を使用した新しい冷凍機が普及している。
 液化ガス式は1960年頃に急速冷凍の実用機がアメリカで開発され、日本においては1966年に日本酸素がエアリダクション社と技術援助契約を結び、以降、連続式トンネルフリーザ(Magic Freeze) を製造販売している。今日では連続式トンネルフリーザの他、バッチ式ボックスフリーザ、浸漬式フリーザ、噴射型トンネルフリーザなど各種改良型を加えてラインアップする事により,液体窒素を利用した食品急速凍結装置が数多く実用化されている。
 本講演では、液化ガスによる食品凍結の実施例をはじめ、液化ガス式凍結装置の特徴や各種液化ガス式凍結装置の説明を中心に、食品凍結における液化ガス式凍結装置の紹介を致します。

太田英俊氏 
不凍タンパク質の特性とその応用
                        関西大学工学部生物工学科 微生物工学研究室 小幡 斉  
  一旦、形成された氷による損傷を軽減するためには、その成長を抑制する必要がある。このような作用を有している物質として、魚由来の不凍タンパク質がもっとも良く知られている。不凍タンパク質は南極の魚の血清中から初めて見出されて以来、 植物、昆虫の幼虫、細菌などから多数の同タンパク質が発見されている。しかし、不凍タンパク質と言う名称を耳にすると、通常このタンパク質は不凍剤と考えてしまうが、大部分の同タンパク質の凍結温度を低下させる能力は低く、約0.2〜0.5℃ほどである。その中で、昆虫の幼虫由来のタンパク質は、濃度によっては4〜5℃ほど凍結温度を低下することができる。この能力から、昆虫由来のタンパク質のみ熱ヒステレシスタンパク質と呼んでいるグループもある。
  この機能は、細胞を保護するために必要な氷結晶成長阻害と密接に関連しているのである。に示したように、不凍タンパク質は、氷の結晶のプリズム面(大部分由来)あるいはプリズム面と基盤面(昆虫由来のみ)に結合することによって、成長阻害を引き起こす。そのため、氷結晶は氷結晶を様々な形状に変化させることができる。さらに、その結合によって、-20℃付近までの凍結時に起こる再結晶化を阻害することができる。つまり、細胞内あるいは組織内で、自由水として存在する水分子の氷結晶への結合を妨げるのである。この能力は冷凍庫などでの食品保存の品質保存にかなりの能力を発揮できる。
  不凍タンパク質の第4の機能として、細胞膜の低温下での安定化に寄与していることが魚由来の不凍タンパク質で証明された。この機能においても、人工リポソームの低温下での安定化への応用が期待されている。この多くの作用に対して、世界の企業が注目し、多数の特許が出されているのは事実である。
  種々の生物由来の不凍タンパク質のうち、細菌由来の不凍タンパク質は、1995年にカナダ、ウォータルー大学のグリック教授らのグループが、低温性の植物成長促進細菌であるPseudomonas putida GR12-2が不凍活性を有していることを初めて報告した。GR12-2株の同タンパク質は、分子量162,000のリポ糖タンパク質であった。さらに、これは、不凍活性のみならず、全く逆の作用である氷核活性も弱いながら有していると報告され、機能的に見ても非常に興味深いタンパク質である。
  我々の研究室においても、南極大陸に棲息する細菌群(135菌株)から不凍タンパク質生産菌をスクリーニングした。 その結果、氷核活性細菌の棲息率よりも低く、約5%であった。活性が高い菌株を同定したところ、Moraxella属細菌の一種であることが明らかになった。
  本講演では、不凍タンパク質の基本的な機能について解説するとともに、種々の生物種の不凍タンパク質のうち、細菌由来の不凍タンパク質の構造などについての説明を中心に、冷凍食品への応用についても紹介を致します。
小幡 斉氏
総合討論

 懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:miyake@mbox.inet-osaka.or.jp)   
TOPに戻る
HOMEに戻る