2003年 日本穀物科学研究会

第115回例会

 9月26日(金)13時45分より第1部工場見学敷島製パン株式会社神戸工場で、15時45分より第2部講演を神戸西神オリエンタルホテルにて第115回例会を開催いたしました。 100名を越えるたくさんの方にご参加いただきました。 今回は若い会員の方の参加も増えてまいりました。
テーマ  敷島製パン株式会社神戸工場見学会と講演
 同社神戸工場平田修二氏よりご説明を聞いた後、見学用ビデオ上映、その後二班に分かれて工場見学を行いました。
平田工場長
講演  パン業界の動向について
  山田真彦氏 (敷島製パン褐、究部部長)
山田真彦氏
パン生地の冷凍・解凍過程における熱工学的問題に関する研究
 山田盛二氏 敷島製パン梶@商品開発部
1.はじめに

我が国では,フレッシュな製品の供給や労働条件の改善を目的として,通常の製パン工程における分割や成形,あるいは発酵まで進んだ製品を一旦冷凍保存し,後日受注数に見合った生産計画に従って解凍,製造する冷凍生地製パン法が確立した.ところで,この冷凍生地であるが,食糧庁が発表した「2002年のパン生産量(生産動向調査)」によると,ここ20年近くパン全体の生産数量はほぼ横ばいであるにも関わらず,冷凍生地の生産量だけは昭和61年から16年連続して対前年比2桁増(平均)の成長を続け,現在ではパン生産量全体の約6%を占めるまでに至っている(図1).この増加傾向が始まった昭和60年当時と比較すると,実に4.5倍の使用量となっている.

2.冷凍過程
 パン生地が受ける冷凍障害は,主に冷凍時における凍結速度と保存時まで含めた最低到達温度に因るところが大きい.従って,冷凍された生地の温度履歴を把握することは,対象物の凍結速度や最低到達温度の生地内分布を知るために必要との判断から,本研究では,@試料に適した熱伝導率測定装置の開発,Aパンを中心とした食品の有効熱伝導度の測定,B数値計算によるパン生地冷凍時における熱移動問題の解析,C生地の冷凍障害への凍結速度および最低到達温度の影響の解明,と研究内容を計画した

3.冷凍条件に起因する生地の冷凍障害
 3.1 イースト活性 製パンに使用する酵母は,一般的に氷点以下にまで及ぶ冷却に対しては最低到達温度の低下に伴って酵母の凍結損傷が進行する.この場合,生地への障害としては酵母の活性低下による発酵遅延に加えて,死滅した酵母から漏洩する還元物質により生じる生地の軟化といった問題が挙げられる.3.2 冷凍条件   生地冷凍工程の生産効率や生地構造への負荷を考えると低い温度で急速に冷却するべきであるが,イーストへの障害を考慮すると過度な冷却は避けるべきである.そこで,適正な冷凍条件を考える場合には,生地冷凍過程における生地の最低到達温度を指定しておき,冷凍条件を変化させていく過程においても,常に生地は指定した温度以上に保持させるような操作が必要になってくる.一例として,生地の最低到達温度を−15℃と設定し,−40℃の初期急速冷凍を組み合わせた4テスト区における冷凍条件について,数値解析によるシミュレーションと製パン試験を行った.冷凍条件は,a)−15℃で冷凍・保存,b)−40℃で初期に急速冷凍し,解析結果に従って生地全体の最低到達温度が−15℃になるように温度制御した後,−15℃で保存,c)−40℃で初期に急速冷凍し,解析結果から外れて生地温度が一時的に−15℃よりも過度に冷却されるように温度変化させた後,−15℃で保存,d)−40℃で冷凍・保存,とした.
 3.3 実験結果   生地測定項目としては,生地のガス発生量・保持量・SEM撮影,製品の内相(画像解析)・形状・体積・テクスチャー解析を行ったが,適正な生地の最低到達温度と凍結速度が遵守されている冷凍条件によるテスト区(b)において,酵母および生地構造への障害が軽微であると考えられる結果が得られた.図2は,各条件で冷凍した生地で製パンした一斤型パンをスライスした断面図である.視覚的にも内相・外観の違いを確認することができる.
 なお,別途,凍結速度に関しては,最低到達温度を一定とした条件で実験を行っており,急速冷凍による条件下において,概ね良好な品質の製品が得られている.

4.解凍条件に起因する生地の冷凍障害
 4.1 解凍条件 冷凍生地を扱う店舗等での作業手順としては、使用する前日にパン生地をトレー上に載せ替え、夜間に冷蔵庫内で解凍させる方法が一般的である.解凍後におけるイーストの発酵を極力抑え、安定した状態の生地を得る目的で、冷蔵庫の設定は通常0〜3℃程度に設定されている。パン生地の解凍における冷凍障害としては、一般的に氷結晶に影響すると考えられる条件を設定した。試料であるパン生地には、凍結温度θfr;-3.2℃付近での温度履歴の違いを解凍条件として与えられることになる.
 4.2 生地内温度変化   解凍過程における実測値には,冷凍過程と異なり凍結温度に留まって状態変化のみが生じるといった現象は見られず,生地温度は凍結温度を越えた時点における急激な上昇が見られるものの,一律上昇する結果となった(図3参照).一方,凍結温度においてのみ解凍が起こるものとして計算した場合,得られた結果は明らかに実際の現象とは異なる傾向を示し,計算の仮定が不適切であることが示唆された.パン生地の凍結率を計算に考慮することによって,数値計算の結果と実測値とは近似した傾向を示し,本解析結果の妥当性が確認できた.
 4.3 実験結果   解凍過程での生地への障害レベルを推測する指標については,従来から言われてきた最大氷結晶生成帯の滞留時間で概ねまとめる事ができる.図4に,最大氷結晶生成帯の滞留時間が異なる各条件に従って解凍したパン生地のSEM像を示す.比較的緩慢な解凍条件による試料b)ではデンプン粒を取り巻く生地のグルテン構造が細く脆弱化しており,過多の障害を受けていることが推測される.パン生地・製品の状態・品質に関しては,前節と同様の測定を行っているが,緩慢な解凍条件によるパン生地では,概ね低い評価となっている. 

 山田盛二氏
会場風景

懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:miyake@mbox.inet-osaka.or.jp)   
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