ドイツベーカリー訪問レポート

テクノバ株式会社 弘中泰雅  

 二月の前半、業務提携しているドイツのソフト企業ツールボックス社とのミーティングの為にドイツに行った。一週間余りの旅であったが、ツールボックス社のウルマー役員のお陰で、約1000kmも各地を走り回って、ドイツの製パン工場を7工場ほど視察できたので報告したい。これ等の会社を巡って、訪問した会社の多くが繁昌していると感じた。 工場の建物はいずれも平均的には日本の工場の建物よりはしっかり作られているし、設備も比較的新しいものが多いようだ。主に夜間操業中に訪問したが、いずれの工場も明るく、日本の工場は手元の照度を確保する為に、照明器具を低めに設置してあるところが多いが、ドイツの工場では天井の高いところに照明器具があり、天井まで明るく全体的に清潔に見えた。最大の違いは床の材質で、出荷部門などは日本と同じくエポキシ塗装と思われるものが多かったが、パンの製造現場は明るい灰色のタイル張りで、丈夫で清潔に感じられた。 いずれの工場も小麦粉など原材料はほとんどサイロから自動計量で供給され、工場内には粉袋、ダンボールなどはほとんど無かった。コンベアーは成型のところにわずかにあるくらいで、日本の工場のように工場中をコンベアーが走り回っていないので、工場が明るく開放的に感じられた。これは作られるパンのほとんどがハースブレッドの為、いわゆる天板や焼成ケースが不要なために、それらのコンベアーが無いことによるが、いずれにしても掃除がしやすい構造である。

 最近日本では業界紙面でも、食品衛生がもっと大切な話題の一つであるが、ドイツでのそれは日本に比べて緩やかに感じられた。特に服装などは日本に比べて簡易で、日本の30年前の服装を想像していただければ、それに近い。ヘアーネットも無ければマスクもしていない。無論毛髪等の混入の問題はあると言っていた、国民性の違いか消費者が日本ほど神経質ではないのだろう。一つには環境的に冷涼で、腐敗や飛来昆虫が少ないことにもよると思うが、日本の工場は構造上あるいは運営上、異物購入を起こしやすい環境のまま、それを防ぐ為に厳しい管理をしていると言えなくもないだろう。一般的に日本の工場は、見た目ドイツの工場に比べて汚い、この点は一考の余地がある。

 日本ではパン企業の利益が少ないという話をよく聞くが、ドイツのパン屋はその建屋や設備の新しさから察して、概して利益を出しているように感ずる。勿論消費規模の違いが大きい、古い資料で恐縮だが1995年のECの食用小麦粉消費は3500万トンで、当時の日本のそれは500万トンである。消費のベースであるECの人口は2億2500万人で日本の人口の約2倍であるので、一人当たりの消費量は3倍をくだらないであろう。しかも日本では麺類の消費が多いので実際には、5倍以上の開きがあるかもしれない。したがって店頭に並べられているパンの量はボリューム感がある。消費量に加えて、製品の価格が高い、いわゆる菓子パンはおよそ2ユーロ(日本円に換算して約280円)、無論かなり大振りであるが、それを差し引いてもかなり高い。その原因は大半のパンがスーパーではなくて、リテールベーカリーで売られており、マイスター制度との関わりもあろうが、価格が維持されているのであろう。現に早朝パン工場を訪問したときも、暗いうちから付設のショップにたくさんの人が、車に乗ってパンを買いに来ていた。無論この店はスリフトショップではなく、ドイツではパンは出来るだけ新鮮なものが求められるのである。したがって消費者は新鮮なパンを求めて朝早くからパン屋にやってくるのである。

 今回訪れた工場の中で、スーパーが経営する工場もあった。これ等の工場は巨大で、日本の大手の工場に匹敵する規模である。日本では30年、40年以上たった大型のオーブンがかなり見られるが、こちらでは設備もほとんど最新鋭である。スーパー経営の工場は設備が最新鋭であるためもあろうが、工場情報の流失を懸念して、撮影は許可されなかった。その他の工場は従業員が50〜100名と思われる規模で、写真撮影に関しても、ツールボックスとの関係もあり大らかであった。これらは日本では経営的に最も厳しい規模である。それぞれの工場の規模を理解しょうとして、いろいろと質問したが余り小麦粉消費量や袋数をベースに工場の規模を表す慣例は無いようであった。工場もしくは会社の規模を訊ねると、たいていの工場では店の数、もしくは配送トラックの数が、規模の表現として返ってきた。これ等の会社の規模は概ね、10〜20店のリテールベーカリーと略同数のトラックを所有し自社の店で販売している。このほか若干スーパーなどで売る外販製品を作っているようだった。売上金額についてはほとんどがオーナー会社であるためか、返答をかわされた。

 オランダ国境に近い人口25万に程度の市では、この上述の規模の企業が3〜4社存在し、これ等は一部オランダにも越境した、半径40km程度の販売エリアで入り乱れて商売をしているようであった。したがって人口30〜40万人の商圏で60〜80台のパン屋のトラックが走りまわっている計算になる。今回の移動中、大手スーパーマーケットのトラックと何台もすれ違ったので、大手ベーカリーの商品もかなりの量が売られているはずであるが、一人当たり消費量が日本の数倍もあるドイツだから、これだけのローカルベーカリーが存在しえるのであろう。

 べーカリーの設備は日本でもなじみのメーカーのものが多く、連続オーブンはスーパーの大工場で見ただけであり、作業のほとんどはバッチ作業で、連続作業の設備は少なかった。作業そのものは昔ながらの作業で、パン作りは手作り中心で、生産効率は高いとは言いがたい。しかし原材料の計量設備や、仕分けのシステムなどの周辺設備は日本より、格段に進歩している。特に自動計量装置は、30年前ドイツを訪れた時にもあったし、今回全ての工場で導入されていた。これは段取り作業の効率、計量間違い、異物の混入には間違いなく効果があろう。既にトレーサビリティ(IFS,EU 1935/2004)の取り組みが始まって居り、それに伴うシステムの導入もすでに行われていた。業界として今後留意しておかなければならない部分であろう。

 仕分けについては日本では、大手では大掛かりな固定の設備を導入して行っているが、柔軟性が低く、変化に対応し辛い、また設備が固定されているため掃除もしにくく、ごみがたまりやすく、昆虫の住処にもなりやすい。ドイツの工場では広々とした場所で、コンピューターを活用した仕分けが効率よく行われており、日本でもこのシステム導入を検討したほうが良い。またGPSとインターネットを活用した配送システムを車両に導入している企業もあった。これは生産システム、仕分けシステムなどと連動したしており、より顧客満足度の高い配送が行われていた。これ等についてより詳細な情報が必要な方、は弊社までご連絡を下さい。

 久しぶりにドイツのベーカリーを訪問して、ドイツのパン産業が今後の日本のパン産業のあるべき姿だとは思わないが、マイスター制度を残しながらも、さすがに合理的な部分もあり、日本のベーカリーが参考にすべ基点は多々あると思った。多くの日本のベーカリーは低収益になやんでいる。国民性や制度、環境の違いはあるが、手作りを重んじる反面、利益の上がる商売、コストの下げかたなど合理的で、ドイツには日本のベーカリーに参考になるところもたくさんある。お疲れ様でした下の写真はシュべチンゲンの宮殿とケルンの大聖堂です。