2013年 日本穀物科学研究会

AACC日本支部とのJoint講演会

2013年3月8日(金)13:00より神戸女子大須磨キャンパス E館(図書館)AVホール。 
テーマ  AACC International 日本支部とのジョイント講演会のご案内
講 演

「小麦の遺伝子・タンパク質解析による品質要因の解明と品種開発」
                         池田達哉      (独)農研機構 近畿・中国・四国農業研究センター  主任研究員 

   

 小麦の自給率は10%程度しかなく、ほとんどは海外からの輸入に頼っており、特にパン用の小麦の国内生産は1%程度しかないのが現状である。一方、近年増大している自然災害により、海外での小麦生産が不安定になり、その価格も上昇傾向にあることから、小麦の国内生産の増大が必要と考えられる。しかし、国産小麦は価格が高く、加工適性は輸入小麦に比べて劣っていることから、国産小麦の加工適性の向上が求められている。
 小麦の生地の粘弾性は小麦独特のグルテンタンパク質に由来し、グルテンには、強さのもととなるグルテニンと、伸びのもとになるグリアジンというタンパク質が含まれてる。 品種ごとにこれらの量の比率や構成の違いによりグルテンの粘りと弾力が大きく変わり、タンパク質が多く、グルテンが強めのものはパンや中華麺に適し、タンパク質が少なくグルテンが弱めのものはケーキなどの菓子に、その中間のものはうどんに適している。タンパク質の量は栽培条件によって大きく影響を受けるが、グルテンの質的な強さは、遺伝的要因によって決定されている。 そのため、様々な加工用途に合わせた国内品種の開発のためには、用途に適したグルテンタンパク質の組合せを明らかにする必要がある。我々はこれまで、グルテンタンパク質とその遺伝子の構成と生地物性との関連について研究しており、グルテンタンパク質の遺伝子情報を元に、グルテンの強さに関わる遺伝子を選抜することで国産小麦の改良を行っている。本講演では、輸入小麦銘柄と国内外の品種のグルテンの構成と加工適性ついて考察するとともに、今後の国産小麦の加工適性を向上のための戦略について議論する。

 
   池田  達哉氏  
   
     
     
     
   
   
   

米糠のちから          -こめ油から種々の機能性成分まで-
                                            橋本博之    築野食品工業株式会社

 

日本の主食である米は,古来は玄米の形で食され日本人の健康を培ってきたが,現在はおいしさの追求の中で米糠を取り除いた白米の形で食されることが主流である.しかし,玄米の栄養成分のほとんどは米糠に含まれている.さらに,米糠には栄養成分以外にも様々な機能性成分が含まれることが見出され,その食経験の豊富さによる高度な安全性の観点からも脚光を浴びている.本講演では,米糠から製造されるこめ油から種々の機能性成分までを概観する.

【こめ油】
 こめ油は国産原料から製造される唯一の植物油であり,淡泊な味と,酸化しにくく加熱しても安定な特長を有する.また,独特の香ばしい風味を持つことから製菓用や生食用にも利用される.不ケン化物としてビタミンE,オリザノール,ステロールなどの保健機能成分を豊富に含むことから,最近は,保健機能の高い植物油として注目されている.

油溶性の機能性成分
 油溶性の機能性成分としては,γ-オリザノール(Oz),フェルラ酸(FA),ビタミンE(特にトコトリエノール(T3)),セレブロシド(グルコシルセラミド)などが注目されている.
 Ozは,FAとトリテルペンアルコールあるいはステロールのエステルで,高脂質血症,更年期障害,過敏性腸症候群,心身症における身体症候ならびに不安,緊張,抑うつなどの改善が期待できる医薬品として販売されている.また,酸化防止剤として食品添加物に認可されている.Ozは,転写因子NF-kBの活性化を抑制することにより,炎症やメタボリックシンドローム(MetS)を改善する.また,IgE抗体と結合しI型アレルギーを低減する.さらに,玄米が高脂肪食に対する嗜好性を低減させることにより抗肥満・抗糖尿病作用を発揮することが報告され,その機能本体はOzとされている. FAは工業的にはOzの加水分解によって製造され,酸化防止剤として食品添加物に認可されている.FAは,抗酸化作用による持久力向上・抗疲労効果が報告されている.また,ヒトでのアルツハイマー型認知症における認知機能低下の抑制効果が報告され,病院でも使用が進められている.Ozは,消化管の表面で加水分解を受けFAとなるため,同様の効果が期待される. T3は,がんや糖尿病性網膜症などの進展に関与する血管新生を抑制する.セレブロシドは,植物セラミドと呼称され,肌の乾燥や皺の増加を改善する.

【水溶性の機能性成分
 水溶性の機能性成分としては,フィチン酸(イノシトール6リン酸,IP6)やイノシトールなどが注目されている.IP6は,米糠に多量に存在するフィチンから金属イオンを除去して製造され,強いキレート作用が特長の化合物である.酸味料・製造用剤として食品添加物に認可されている.リン酸基は,生体内ではエネルギー供給や情報伝達に関与する重要な化合物であり,IP6を含むイノシトールリン酸プールにより維持されている.IP6には脂肪肝の抑制や免疫機能の賦活など様々な生理機能が報告されている.また,がん関連シグナルの一つであるPI3キナーゼ系を阻害することによる制がん効果が注目されている.イノシトールはフィチンの加水分解により製造され,米のビタミン様物質(ビタミンB群)として様々な生理機能を発揮する.抗脂肪肝因子として,脂肪肝,肝硬変,動脈硬化症等に有効と考えられ,医薬品分野で広く用いられている.強化剤として食品添加物にも認可されている.大量摂取により,パニック症候群や強迫性障害(OCD)の治療に有効性が示唆されるなど脳機能の改善の報告もある.さらに,イノシトールはヒトへの2週間経口摂取により,MetS関連項目だけではなく超悪玉コレステロールといわれるスモールデンスLDLを顕著に減少させた.イノシトールは,MetSの改善効果を有する食品素材として期待できる.

【おわりに】
 米糠の機能性成分には,さらに新しい機能性が見つかる可能性が高い.米糠が将来にわたり国民の保健に大きく貢献できることを確信する.

   橋本 博之氏  
   
   
     
   
   
   
 製パンへのセルロース粒の利用と新しい導入の可能性
                                            田原 彩氏        神戸女子大学 瀬口研究室
   田原 彩 氏
   
   
   
     
   
   

高機能性米の調製・加工技術に関して    
                                              水野 英則 ㈱サタケ 技術本部

   

日本の主食である米は,古来は玄米の形で食され日本人の健康を培ってきたが,現在はおいしさの追求の中で米糠を取り除いた白米の形で食されることが主流である.しかし,玄米の栄養成分のほとんどは米糠に含まれている.さらに,米糠には栄養成分以外にも様々な機能性成分が含まれることが見出され,その食経験の豊富さによる高度な安全性の観点からも脚光を浴びている.本講演では,米糠から製造されるこめ油から種々の機能性成分までを概観する.

【こめ油】
 こめ油は国産原料から製造される唯一の植物油であり,淡泊な味と,酸化しにくく加熱しても安定な特長を有する.また,独特の香ばしい風味を持つことから製菓用や生食用にも利用される.不ケン化物としてビタミンE,オリザノール,ステロールなどの保健機能成分を豊富に含むことから,最近は,保健機能の高い植物油として注目されている.

【油溶性の機能性成分】
 油溶性の機能性成分としては,γ-オリザノール(Oz),フェルラ酸(FA),ビタミンE(特にトコトリエノール(T3)),セレブロシド(グルコシルセラミド)などが注目されている.
 Ozは,FAとトリテルペンアルコールあるいはステロールのエステルで,高脂質血症,更年期障害,過敏性腸症候群,心身症における身体症候ならびに不安,緊張,抑うつなどの改善が期待できる医薬品として販売されている.また,酸化防止剤として食品添加物に認可されている.Ozは,転写因子NF-kBの活性化を抑制することにより,炎症やメタボリックシンドローム(MetS)を改善する.また,IgE抗体と結合しI型アレルギーを低減する.さらに,玄米が高脂肪食に対する嗜好性を低減させることにより抗肥満・抗糖尿病作用を発揮することが報告され,その機能本体はOzとされている. FAは工業的にはOzの加水分解によって製造され,酸化防止剤として食品添加物に認可されている.FAは,抗酸化作用による持久力向上・抗疲労効果が報告されている.また,ヒトでのアルツハイマー型認知症における認知機能低下の抑制効果が報告され,病院でも使用が進められている.Ozは,消化管の表面で加水分解を受けFAとなるため,同様の効果が期待される. T3は,がんや糖尿病性網膜症などの進展に関与する血管新生を抑制する.セレブロシドは,植物セラミドと呼称され,肌の乾燥や皺の増加を改善する.

【水溶性の機能性成分】
 水溶性の機能性成分としては,フィチン酸(イノシトール6リン酸,IP6)やイノシトールなどが注目されている.
 IP6は,米糠に多量に存在するフィチンから金属イオンを除去して製造され,強いキレート作用が特長の化合物である.酸味料・製造用剤として食品添加物に認可されている.リン酸基は,生体内ではエネルギー供給や情報伝達に関与する重要な化合物であり,IP6を含むイノシトールリン酸プールにより維持されている.IP6には脂肪肝の抑制や免疫機能の賦活など様々な生理機能が報告されている.また,がん関連シグナルの一つであるPI3キナーゼ系を阻害することによる制がん効果が注目されている.イノシトールはフィチンの加水分解により製造され,米のビタミン様物質(ビタミンB群)として様々な生理機能を発揮する.抗脂肪肝因子として,脂肪肝,肝硬変,動脈硬化症等に有効と考えられ,医薬品分野で広く用いられている.強化剤として食品添加物にも認可されている.大量摂取により,パニック症候群や強迫性障害(OCD)の治療に有効性が示唆されるなど脳機能の改善の報告もある.さらに,イノシトールはヒトへの2週間経口摂取により,MetS関連項目だけではなく超悪玉コレステロールといわれるスモールデンスLDLを顕著に減少させた.イノシトールは,MetSの改善効果を有する食品素材として期待できる.

【おわりに】
 米糠の機能性成分には,さらに新しい機能性が見つかる可能性が高い.米糠が将来にわたり国民の保健に大きく貢献できることを確信する.

   水野 英則氏
     
   
     
   
   
     
連絡先 オリエンタル酵母工業㈱ (〒564‐0043 大阪府吹田市南吹田4-4-1)
日本穀物科学研究会事務局 植松(Tel 06-6338-0551、Fax 06-6384-7691)
E‐mai:yuko-u@oyc.co.jp   
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