2006年 日本穀物科学研究会

第128回例会

2006年11月17日(金)13:30より高津ガーデン(大阪市天王寺区東高津町7-11)にて第128回例会を開催いたしました。 
テーマ  
 『冷凍食品の現状と高品質化をめざした今後への取り組み』

講演  冷凍パン生地市場の最近の動向とヤマザキの取り組み
                       山崎製パン株式会社 中央研究所
 貝沼 謙氏

【冷凍パン生地市場の現状】
 近年、我が国の製パン用の小麦粉消費の総量はほとんど変化しておらず、とくに最も製造利益の高い食パン消費の伸び悩みは、過去数年間の製品の低価格化という実情を内包する製パン業界に大きな影を落としている1)。このような状況の中、1980年代の中盤以降の冷凍生地に使用される小麦粉の量は確実に伸長してきた2)。とくに、大手コンビニエンスストアーが独自に冷凍生地製品の供給体制を敷いた1990年代はその製造量が伸びた時期でもある。
 2000年以降、この動きは若干落ち着いた感があるが、冷凍生地工場を中国本土で稼働する業者の出現など、今後の動向に影響を及ぼしかねない動きがいくつか見られ、2002年と2003年の冷凍生地に使用された小麦粉の量ははじめて前年を割っている。2004年以降、数量的には回復しているものの、輸入品の動向は今後も大きな変動要因と考えられる。

【冷凍パン生地製品の特徴】
 製パン業者は規模の大小に関わらず、複数のアイテムを長時間かけて製造する必要があり、このような重労働を強いる製品の価格としてはパンの値段は概して安価である。また、パンは他の加工食品に比較して品質の変化が早い。冷凍生地技術の開発は、小規模製パン業者には労働負担と設備投資の軽減を、大規模製パン業者には長期的な計画生産の実現をもたらしたいとの背景から開発された。

冷凍生地技術は4種類に大別され、それぞれ一長一短が知られる(表1)。現在最も広く用いられており、技術的にもバランスが取れているのは「成型冷凍」であろう。

表1 各種冷凍生地技術の特長

生地生産性

流通保管コスト

製品提供時間

技術者習熟度

最終製品品質

生地玉冷凍

×

×

成形冷凍

ホイロ後冷凍

×

×

×

パーベイク冷凍

×

×

×

【ヤマザキの取り組み】
 このような状況下ヤマザキでは2002年に、一月の売り上げ100万円を損益分岐点とする小型店舗の開店を可能にした新業態:ミニベーカリーシステムを提唱している。
 また、店頭焼成後の風味強化を目的として焼成時のアミノカルボニル反応を促進する発酵種の開発にも取り組んでいる。本講演では当社が取り組んでいる、これら冷凍生地関連の新規技術についても紹介したい。

【参考文献】
   1)        K. Kainuma, 2003 AACC Pacific Rim Meeting, Wheat Quality Management and    
         Processing into the 21st Century, 9(2003)
   2)        丸岡 宏, 日本食品低温保蔵学会誌, 17(2), 69(1991)

貝沼 謙 氏

  ポジティブリスト制度の導入の功罪
 大阪府立食とみどりの総合技術センター 都市農業部総合防除グループリーダー
    田中 寛氏 

 2003年に食品衛生法が改正され(厚生労働省),残留農薬基準等のポジティブリスト制度が2006年5月29日から施行された。ポジティブリスト制度は2003年の農薬取締法改正(農林水産省)と合わせ,農業現場では非常に厳しく受け止められ,さまざまな混乱も引き起こしている。一方,これらの法改正は,とくに将来を考える時,負(罪)の面ばかりでなく,食品における事故のリスクを可能なかぎり少なくする(リスクゼロはありえない)とともに,生産者・消費者に正しい情報を提供して意識を改革するという正(功)の面も大きい。
 農薬取締法と食品衛生法はしばしば混同されている。農薬取締法は厳しい審査をパスした農薬について製造・輸入・販売・使用を規制するものであり,違法の場合は罰則が科せられる。03年の改正は使用者への罰則を追加した点が重要である。一方,食品取締法は食品中の薬品濃度が基準値を超えた場合に流通を禁止するものである。
 ポジティブリスト制度の導入以前は,食品(農水畜産物)に残留する薬品(農薬=植物薬・動物薬)の検査は基準値のある『食品×薬品』の組み合わせに限られていた。これに対し,導入以後では検査は加工品を含む全ての食品と薬品の組み合わせを対象とし,それまでに基準値がなかった場合は一律0.01 ppmという基準が適用されるようになった。
 ポジティブリスト制度の導入により,輸入農産物において日本で未登録の農薬についてチェックできるようになった。一方,国産農産物においては基準値のない『作物×農薬(食品×薬品)』の組み合わせが多いこと,具体的にはとくに農薬のドリフト(飛散)にともなう0.01 ppm一律基準超過の発生が問題になり,現在さまざまな対策が講じられている。この対策の中には,単にドリフト防止技術だけでなく,IPM(総合的有害生物管理)による効率的かつ環境保全型・持続可能型の病害虫雑草防除技術の開発・普及,行政からの情報提供・指導徹底なども含まれる。
 本講演では上記の概要とともに,大阪府における現状・事例を解説する。

田中 寛氏 
 
  冷凍うどんの製造状況と今後の取り組み
                      潟Lンレイ 商品開発室 斉藤 克敬氏 田嶋 徹氏
2005年生産食数は家庭用が111007万食(前年比07%増)、業務用が130314万食(同69%増)の合計241321万食(同40%増)、出荷額は家庭用8853891万円(前年比05%減)、業務用5929287万円(同58%増)の合計14783178万円(同15%増)と、21年連続の伸長を維持。

【冷凍めんの特長】

【弊社が取り組んできたこと】

キンレイ商品は具材・めん・スープを分けて凍らせた三層構造です。お湯・水を加えたり、スープや具材を袋から出したりする手間なく、どなたでもご家庭で簡単に専門店のような鍋焼うどんをお召し上がりいただけます。
【今後の取組み】
  2006年度から弊社は、新キンレイとしての歩みをはじめました。
客様に「最高のごちぞうさま」をお届けするために、今取り組んでいる課題や、以前から抱え
ている課題などについて、当日、お話をさせていただきます。

【データなど出典
    有限責任中間法人 日本冷凍めん協会 HP

冷凍コロッケ、冷凍食品の製造と高級化の取り組み
                     ニッスイ梶@中央研究所  富田美鈴氏
  種々の素材にパン粉を衣付けして油ちょうするフライ食品の衣の役割として1)油脂の高温が直接材料に伝わらないように温度の緩衝作用を行う、2)うまみ成分やビタミン類などの食品成分の損失を防ぐ、3)高温短時間加熱かつ油脂を含むことにより、独特の食感を有する層を形成する、4)衣自体が吸油し、適度にこげることにより独特の香りを生じ食欲をそそる、などが挙げられる*1)。しかし、近年のヘルシー志向の強まりにより油脂カロリーの過剰摂取が問題にされ、フライ食品のような高い油脂含量の食品は敬遠される傾向がある。油脂分を多く摂取すると血液中にコレステロールや中性脂肪が多くなって動脈硬化を引き起こす原因となり、さらに動脈硬化が進むと、狭心症や心筋梗塞が心配されるという問題がある。
 そのような背景のもと、パン粉及び製粉業界では上記のフライ衣の吸油という問題点を解決するために種々の油ちょう時の吸油量が少ない、いわゆる低吸油性のパン粉の開発がなされてきた。例えば出願された特許の例をみると、豆類から抽出した食物繊維細胞膜を配合する吸油率の低いパン粉*2)、とうもろこし外皮から調製された食物繊維を含有するフライ用パン粉*3)、トウモロコシから調製された食物繊維及び大豆から調製されたタンパク質の添加を特徴とする低吸油性フライ用パン粉*4)、主原料として大豆粉および加工澱粉を添加した穀物類を用い、かつパン比容積を2.8〜3.6ml/gになるように醗酵を抑制して焼成することを特徴とする吸油の少ないパン粉の製造方法*5)、定法によって得られるパンブロックを圧延した後、粉砕することを特徴とするパン粉の製造方法*6)、食材本体の表面に、キトサンを含有させたパン粉を付着させたパン粉付き食品*7)、オキアミ殻粉末を添加するなどの方法により、パンの気泡数を増加し、かつ、各気泡の大きさを小さくするように制御したパンから製造した、低吸油性でありながら良好な食感を維持したパン粉*8)等がある。
 しかしながら、上記の食物繊維及びタンパク質の添加が低吸油性の衣としての効果を十分に発揮するにはかなりの量が必要であり、添加量の増加に伴ってパン比容積は小さくなり、パン粉は大変硬くなる。パン比容積の抑制やパンブロックの圧延といった方法に関しても、パンのメを詰まらせることによりパン粉は硬くなり、食味の低下は避けられない。パン比容積(大きさ)と食感『硬さ』は明確な比例関係にある(下記グラフ参照)。最近のパン粉利用の傾向として、食感の硬いドライタイプから生のソフトタイプへ移行している点などを考慮すると、フライ衣は食感が軽い方が好ましい。
 一方、吸油性の低い衣のニーズに関し、主婦ら30名に対して市場調査をおこなったところ、キャノーラ油やヘルシーオイル使用といった訴求項目よりも衣の油自体が少なくなっているという訴求項目の方が魅力度が高いことがわかった(下記グラフ参照)。         
冷凍フライ品の現状と当社の『脂質カットフライ』など 
低吸油性のパン粉に関して紹介する。  
 







                                               
富田美鈴氏
総合討論
 懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:miyake@mbox.inet-osaka.or.jp)   
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